これまで日本では、マイホーム購入と言えば「新築」と考える人が大半でしたが、現在は社会的にも経済的にも「中古住宅」が合理的な選択と言えます。とはいえ、中古住宅、特に「中古の一戸建て」となると状態や性能もさまざまです。また、その住宅が建てられた時に最先端だった機能や流行していた間取りが、今のライフスタイルに合っているとは限りません。そこで検討したいのが、中古戸建ての購入と同時に検査(インスペクション)を併せて「リノベーション」をすることです。
本記事では、(一社)リノベーション協議会 会長で、性能向上リノベデザインアワードの選考委員も務めるu. company株式会社代表の内山博文(うちやま ひろふみ)が「中古戸建て購入+リノベーション」をおすすめする理由や留意すべき事項など、リノベーション事例を交えて紹介します。
(画像出典:性能向上リノベデザインアワード2024/画像提供:エコフィールド株式会社)
<キーワード解説・用語集>
リノベーション1. いま「中古戸建て+リノベーション」をおすすめする理由
「マイホーム=新築」と当たり前に考えられていたのは、もはや過去のことです。現在は、価格や供給数、そしてリフォーム技術の向上などあらゆることを考慮すると「中古戸建て+リノベーション」が合理的な選択と言えるでしょう。
新築住宅の減少と高騰
1990年代後半には年間60万戸を超えていた注文住宅(持ち家)の着工数は、2023年度には約22万戸まで減少しています。大幅な着工数の減少は、少子高齢化による人口減少を主な要因としています。加えて、建築資材の高騰や人件費の上昇も、近年の新築住宅価格を押し上げている要因の一つです。
図1:新設住宅着工戸数の推移

一昔前まで、注文住宅は坪単価70万円〜80万円程度で建てられるイメージでしたが、現在は最低でも150万円程度が必要と言われる時代になっています。加えて、近年は地価が上昇していることもあって、注文住宅は一般の人にはなかなか手が届かない買い物になりました。
図2:建設工事費デフレーター(木造住宅)

性能向上ができるリノベーション会社が増えている
「リフォームしても建物の耐用年数や耐震性は変わらない」と思っている人も多いかもしれませんが、近年では表層部分や設備の改修だけでなく、建物を調査診断の上、耐震や断熱などの住宅性能を向上する技術のあるリフォーム会社もだいぶ増えてきました。
日本の不動産市場において、ようやく中古住宅の売買がメインストリームになってきたこともあってリフォーム・リノベーション業界全体の技術レベルが向上し、安心・快適な住まいづくりを実現しやすい環境が整いつつあります。
性能を高めれば資産性の維持・向上も見込める
リノベーションによって住宅の性能を高めれば、資産性の維持・向上も見込めます。かつてリノベーションが評価に結び付かなかった時代には「リノベにお金をかけるだけ損では」という声もありましたが、今となっては過去の産物です。
国や住宅関連団体は現在、性能の「見える化」を推進しています。たとえば、(一社)リノベーション協議会では、2009年より協議会が定めるリノベーション基準に適合した優良な物件に「Rマーク」を付け、一般の人にもわかりやすく表示する仕組みを設けています。優良基準に適合する物件はどんどん増えており、2017年度に3万件を突破しました。
図3:適合リノベーション住宅(R住宅)


2024年4月には「建築物の省エネ性能表示制度」がスタートし、新築住宅の広告には省エネ性能の表示が義務づけられるようになりました。中古住宅についても表示が推奨されており、(一社)リノベーション協議会でも2024年から省エネ性能についても表示する仕組みを提唱しています。こうした整備が進むと、リノベーションによる性能向上も市場で適正に評価されるようになるでしょう。
好条件の融資が受けられやすくなった
まだ完全とは言えませんが、中古住宅に対する融資はいまや新築並です。フラット35では、新築住宅以上の低金利など、優遇された条件の商品もでてきています。
リフォームローンも住宅ローン金利に近い、好条件の商品がでてきていることから、融資面からしても「中古戸建て購入+リノベーション」を選択しやすくなっています。
「お買い得」な物件が多い
中古マンションは一定の条件での比較や建物の状態を把握しやすいことなどから、新築マンションの価格高騰に引っ張られるようにして価格が大きく上昇しています。一方、中古戸建ては物件ごとの差が大きく、特に築年が古いと土地のみの評価になっているケースも多く、周辺の新築戸建ての価格と比べてもお買い得な物件が多い傾向にあります。また、検査(インスペクション)を実施することで、安心して購入する仕組みもできてきました。
<キーワード解説・用語集>
インスペクション建物の状況を判断し、売主と対話を重ねて交渉していくことで、値段が下がる可能性のある物件も少なくありません。購入時にリノベーションすることを前提とすれば、新築と比べて物件の選択肢も広がります。
新築するより短い工期で済む
新築する場合は工事着手〜完成まで6~10ヶ月ほどかかることも少なくありませんが、リノベーションなら通常4ヶ月程度、早ければ2ヶ月ぐらいで完成することもあります。
工期が短いことで職人の人件費がかからない分、工事費も抑えられる傾向にあります。また、早期に入居できれば、仮住まいや家賃の負担を減らすことにもつながります。
「中古戸建て+リノベーション」は妥協ではなく理想を追求するための手段
中古住宅はかつて「新築が買えない人が妥協して買うもの」という位置づけだったかもしれません。しかし、現在はむしろ合理的な選択であり、自分たちの理想の暮らしを実現するための手段の一つとして注目されています。
2. 中古戸建てのリノベーション事例
ここでは、私が選考委員を務めている「性能向上リノベデザインアワード2024(主催:YKK AP株式会社)」の受賞作品から、中古戸建てのリノベーション事例を3つ紹介します。
森の中の古民家をリノベーション
最初に紹介するのは、Uターンを機に築99年の森の中の古民家をリノベーションした事例です。非常に古い家屋ですが、親から相続した家ではなく、買主自身が「古民家で暮らしたい」という思いから購入し、性能を高めるリノベーションを実施しました。
図4:森の中の古民家性能向上リノベーション


断熱等性能等級は、現在の省エネ基準(等級4)を上回る「等級5」。柱や梁といった味わいある構造材を活かしながら、基礎をベタ基礎に補強し、面材耐力壁を用いて耐震性も現行基準を満たす水準まで引き上げています。
築年数や広さなどのスペックで家を選ぶのではなく、自分たちに合った暮らし方、生き方をするため、あえてこのロケーションの古い中古戸建てを購入し、今の基準を上回る性能に改修したうえで自己実現した点を評価しました。
ここまで改修すると費用面が気になるでしょうが、リノベーション費用は3,000万円以下に収まっています(2017年施工当時)。土地の取得費用を含めても3,500万円程度でしょう。新築で同等の立地・仕様を実現しようとすれば、4,500万〜5,000万円程度はかかるものと考えられます。
「1,000万円程度の差なら新築したほうがいい」というのは過去の話です。性能向上も実現できるうえに、光熱費も物価も金利も上昇している現在、できる限り余力を持って住宅を購入でき、自己実現もできる「中古戸建て購入+リノベーション」をあえて選ぶ人が増えています。
「自然との共生」をテーマにリノベーション
続いては、環境への配慮と持続可能な暮らしを目指したリノベーション事例です。築50年以上の木造住宅を大幅に改修し、断熱性能は既存の約10倍に向上。断熱等性能等級は、ZEH水準(等級5)を上回る「等級6」を実現しています。耐震性についても、既存の約4倍となる耐震等級の最高等級3相当を実現しています。
図5:無為庵(むいあん)~リノベで実現する自然と共に生きる暮らし~


内装はミッドセンチュリーモダンをベースに、既存の梁を活かした意匠が特徴的。大開口の窓からは、既存の樹木と富士山の溶岩石を活かした庭がよく見え、自然との一体感を感じられる設計になっています。
また、7.74kWの太陽光発電パネルを設置し、庭には家庭菜園ができる畑も併設。エネルギーも食も自給する、まさに「自然と共に暮らす」住まい方が体現された事例です。
2階建てを平屋に減築
最後に紹介するのは、空き家の増加数が全国で最も高いとされている横浜市金沢区の公民連携プロジェクトの一環として実施されたリノベーション事例です。もともと2階建てだった木造住宅を、平屋に減築しています。
図6:空き家解消と事業化の両立を追求する公民連携リノベーションプロジェクト


高齢化に伴い、今後は「子どもが独立したのでこんなに広い家はいらないから減築したい」「平屋にしてバリアフリーにしたい」というニーズは高まっていくはずです。減築はせず、暮らしの中心となる1階部分だけ耐震性や断熱性を高める改修も増えてきています。必要な箇所だけにコストをかけることで、費用対効果の高いリノベーションが可能です。
3. リノベーション前提で中古戸建てを選ぶポイント
リノベーションを前提とすれば、あまり築年数や間取りにとらわれる必要はありません。大切なのは、どのような暮らしがしたいのか。その実現に向けて、どのような建物が活かせるのかという視点です。
フルリノベーション前提であれば物件選びはそこまで難しくない
フルリノベーションが前提であれば、実は物件選びは難しいものではありません。最初に紹介した事例は築99年の古民家ですが、それでも現行基準を上回る性能にまで向上させることができました。
木造住宅のリノベーションは、そこまで制約が大きいわけではありません。たとえば柱の一部を取ったとしても、梁や壁で補強すれば耐震性を落とすことなくプランニングができます。ある程度の予算を見込んでおけば物件選びで大きく失敗するということは少ないでしょう。
表層だけの改修なら「2000年築以降」がベスト
一方、表層リフォームだけで終わらせようと思うと、物件選びの重要性は増します。物件選びにおける目安の一つが建築時期です。「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(品確法)が施行された2000年4月を境に住宅の性能基準が変わったため、施行前の建物は特に購入前に検査(インスペクション、詳しくは後述)を実施することをおすすめします。
<キーワード解説・用語集>
品確法建売事業者が選びにくい物件が狙い目
好条件の土地は、新築を計画している一般の人だけでなく、分譲住宅を建てて売りたい建売事業者も求めています。建売事業者は個人と比べて資金力があり、意思決定も早いため、都心部においてはこうした会社が選びにくい物件が狙い目になってくるでしょう。
建売事業者が選びにくい物件の一つは、コンクリートでできた駐車場があるなど、解体に手間がかかる物件です。また、擁壁の上に既存住宅がある土地も、多くの場合、擁壁の解体や造成が強いられることが多いため敬遠される傾向にあります。
「古家付き土地」はお買い得なことも
「古家付き土地」とは、古い家屋が残っているものの土地として販売されている物件を指します。建物は評価されておらず、家屋を解体しなければ新築ができないため、中古戸建てとして売り出されている物件と比べて少し割安です。リノベーション次第でまだまだ利用できる古家であれば、お買い得と言えるでしょう。
検査(インスペクション)を実施し、瑕疵(かし)保険に加入する
中古住宅を購入してリノベーションする場合は、購入前の検査(インスペクション)が不可欠です。検査をすることで、不具合だけでなく、リノベーションすべき箇所が見えてくるため、予算も明確になります。
性能向上には基礎補強を要するケースが多いことから、特に「基礎がどうなっているか」を確認することが大切です。また、木造住宅の大敵である漏水や雨漏りが検査によって発見できることも少なくありません。
<インスペクションについてもっと詳しく>
中古戸建て・中古マンションの 「検査」「インスペクション」って?何を検査する?中古住宅の「検査(インスペクション)」って何をするの?検査の流れやプロが使う道具を紹介!
また、一定の要件を満たした場合には瑕疵(かし)保険に加入することもできます。「リノベーションするのだから保険はいらない」という考え方もあるでしょう。けれども、瑕疵(かし)保険は基本構造部分(柱や基礎など構造耐力上主要な部分と、外壁や屋根など雨水の浸入を防止する部分)が対象となっているため、基本構造部分を残すリノベーションをする場合にこそ活きてくる保険です。
図7:瑕疵(かし)保険の対象

<かし(瑕疵)保険についてもっと詳しく>
「瑕疵(かし)保険」ってなに?「瑕疵保険」が必要な理由とは。特に古い家屋は売主の「契約不適合責任」が免責となることが多く、この場合、引渡し後に何かあっても売主に責任を追及できないため、保険に加入する意義は大きいと言えるでしょう。一方、築浅物件でも主要構造部や外壁、屋根部分を改修しないのであれば、瑕疵(かし)保険への加入を検討すべきです。いずれにしても、瑕疵(かし)保険の加入には検査を実施したうえで一定の要件を満たす必要があるため、事前に確認しておきましょう。
<キーワード解説・用語集>
契約不適合責任<契約不適合責任についてもっと詳しく>
民法の改正で売主の負担がUP!?リスクを回避する方法を専門家が伝授4. 中古戸建てをリノベーションするときのポイント
実際にリノベーションを行う段階では、性能や快適性、コストのバランスがカギとなります。フルリノベーションするのであれば「一歩先」の性能まで向上させ、安心・安全な暮らしのため検査(インスペクション)の実施や瑕疵(かし)保険への加入も同時に検討しましょう。
フルリノベーションするのであれば「耐震補強」はやったほうがいい
古い中古戸建てをスケルトン状態にして全面改修するなら、性能向上は必ず検討したいところです。スケルトンにするのであれば、+100万円〜200万円程度で耐震補強ができます。
古い家は細かく柱が入っていることも多いのですが、耐震性を高めることが前提であれば間取りの自由度が増し、大空間のLDKや大きな開口部の確保も実現しやすくなります。耐震性さえしっかり確保できていれば、室内はライフスタイルの変化に合わせて徐々に改修したり、DIY感覚で家づくりを楽しんだりすることもできるでしょう。
省エネ性能はできれば省エネ基準以上に
主要構造の過半を超える大規模な改修に該当する場合や増築をする場合、改修部分については省エネ基準への適合が求められます。もし、スケルトンにするのであれば省エネ基準を超える性能まで向上させることを検討しましょう。
新築の省エネ基準は現在、断熱等性能等級4ですが、2030年までに断熱等性能等級5(ZEH水準)に引き上げられます。スケルトン改修の場合、省エネ基準にするだけではもったいないでしょう。また、現行の省エネ基準は将来、既存不適格となる可能性もあるため、できれば省エネ基準より高い等級5や6、それ以上にすることをおすすめします。

断熱等性能等級6を超えると、空調システムとの連動で、エアコン1台で住まい全体を快適な温度・湿度にすることも可能で光熱費削減にも大きく寄与します。
欧米と比較すると、断熱等性能等級6でも欧米の最低基準を下回ります。本質的な快適性を望むのであれば等級6以上を目指すべきでしょう。断熱改修を含む省エネ改修工事には、活用できる補助金制度もあります。
<補助金についてもっと詳しく>
【2025年度】中古住宅購入+リフォームに活用できる国の補助金制度・支援事業は?物件選び以上に大切なのはパートナー選び
リノベーション前提で中古戸建てを購入する場合は、検討段階からリノベーション会社に伴走してもらうことをおすすめします。物件選びのハードルは低いとは言え、予算内で希望するリノベーションができるかはわかりません。物件探しの段階でリノベーションの予算について話すことをためらう人もいますが、購入前から予算を含めてリノベーション会社に相談したほうが結果的に総コストは下がるはずです。
ただし、どのようなリノベーション会社でもいいというわけではありません。2025年4月に改正建築基準法および改正建築物省エネ法が施行されたことで、一定以上の規模のリノベーションに建築確認申請が必要になり、改修部分については省エネ基準適合が求められることになりました。一方、建築確認申請不要でできるリノベーションでも、断熱性能や耐震性能を高めることも可能です。しかし、こうした線引きなどを理解していない会社も一定数存在しているのが実情です。
<キーワード解説・用語集>
建築基準法<2025年4月の法改正についてもっと詳しく>
2025年建築基準法改正があなたのマイホームに与える影響とは? よくある誤解6選こうした法改正にも対応し、なおかつ適切な改修内容を提案してくれる会社を見極めることは容易ではありませんが、(一社)リノベーション協議会や「性能向上リノベの会」といった団体に属しているリノベーション会社は総じて意識が高く、実績も豊富です。
リノベーション会社の役割は、デザインだけでも、オーダー通りの改修をするだけでもなく、場合によっては「もっと性能が向上できる」「こういった方法もある」「ここは改修しなくてもいいのでは?」といったプラスアルファの提案をして、仕上げてくれることです。性能向上リノベーションは補助金制度も充実しているため、こうした情報にも精通しているとなおよいでしょう。
5. 信頼できるパートナーと「中古戸建て+リノベ」で自分らしく快適な住まいを手に入れよう
「中古戸建て+リノベーション」は、価格や性能、デザインなどあらゆる面で希望を叶えやすい住まいの選択肢です。新築よりもコストを抑えながら、耐震性・断熱性などの性能を高め、理想の暮らしを実現することができます。近年は制度や融資環境も整い、安心して購入できる環境も広がっています。重要なのは、性能向上に理解のある信頼できるパートナーと出会い、物件選びから検査(インスペクション)、改修計画まで一貫して伴走してもらうこと。これからの時代、自分らしく快適に暮らすための賢い選択肢として、中古戸建て+リノベーションをぜひ検討してみてください。
