中古住宅の検査・保険・保証

中古戸建て・中古マンションの 「検査」「インスペクション」って?何を検査する?

中古住宅の売買で「インスペクション」が実施されるケースが増えています。インスペクションとは、簡単に言えば住宅の検査のこと。中古住宅は、建築されてから一定の期間が経過していることに加え、所有者によって暮らし方やメンテナンス状況も異なるため、品質には大きな差があります。インスペクションによって住宅の現状を把握することは、適正な価格での査定につながるなど売主・買主、双方の大きな安心につながります。

1. 最近よく聞く「インスペクション」って何?

インスペクションとは、建物の「検査」を指します。一般的には、基礎や外壁のひび割れ、雨漏りによるシミなどや劣化、不具合の有無などを、建物に詳しい専門家や建築士が第三者の目線で目視や計測によって調査します。中立的な立場のプロが検査してくれることで、買主の大きな安心につながります。また、インスペクションは状況把握だけでなく、購入後のリノベーションや修繕の計画を立てるうえでも効果的です。

「検査(インスペクション)」「建物状況調査」「瑕疵保険検査」の違い

中古住宅の検査には広義の「インスペクション」のほか、宅建業法で定められた「建物状況調査」、かし(瑕疵)保険に入るための「瑕疵保険検査」があります。この「建物状況調査」の調査方法の基準については国土交通省が定めています。

図表1:インスペクション、建物状況調査、瑕疵保険検査
概要図
(図:中古住宅のミカタ編集部作成)

海外では当たり前に実施されているが、日本での実施率は低い

インスペクションという言葉にまだ馴染みがない人も多いでしょうが、中古不動産取引が盛んな海外では売買の前に必ずといっていいほどインスペクションが実施され、義務化されている国も多くありますが、日本での普及率は高くありません。

2018年度から、不動産会社は売主・買主にインスペクション(建物状況調査)の紹介・斡旋について告知することが義務付けられましたが、不動産流通経営協会(FRK)が行った「不動産流通業に関する消費者動向調査<第27回(2022年度)>」では、中古住宅の実に76.2%の物件がインスペクションは行っていない、という結果が出ています。

図表2:インスペクションの実施状況
グラフ
(図:不動産流通経営協会「不動産流通業に関する消費者動向調査<第27回(2022年度)>」のデータを元に中古住宅のミカタ編集部作成)

諸外国と比べて取り組みが遅いことから、日本でも2018年に宅地建物取引業法の一部が改正され、不動産会社に次の事項が義務付けられるようになりました。

  • 媒介契約の締結時に建物状況調査を実施する者の斡旋に関する事項を記載した書面を依頼者に交付する
  • 買主に対して建物状況調査の結果の概要などを重要事項として説明する(建物状況調査が実施された場合)
  • 売買契約の成立時に建物の状況について当事者の双方が確認した事項を記載した書面を交付する

インスペクション(建物状況調査)の実施そのものが義務付けられたわけではありませんが、国土交通省ではインスペクションのガイドラインや実施のメリットを普及させるチラシを制作するなど、活用を促進し、中古住宅市場を活性化したい狙いが見えてきます。

インスペクションとは
  1. 専門家が第三者として中古住宅を検査すること
  2. 中古不動産取引がさかんな海外では一般的
  3. 日本でもインスペクションの実施が推奨されている

2.「検査(インスペクション)」をしたほうがいい6つの理由

それでは、なぜ、インスペクションをしたほうがよいのでしょうか。ここでは、大きく分けて5つの理由を紹介します。

(1) 現状の建物状況を把握するため

インスペクションを実施する目的は、まず、中古住宅の状況を把握することです。中古住宅、とりわけ中古戸建てにおいては建物の形状や年代、工法など、物件ごとの個体差が大きいものです。特に普段目にすることのない建物床下や天井裏などをプロの目で検査してもらうことで、構造上重要な部位の不具合がないかを確認することができます。

また、日本では建築確認申請が出された新築住宅の建物完成後に、図面通りの建物が建てられていることを示す「検査済証」を発行する制度があります。インスペクションと混同しがちですが、検査済証は建築確認申請通りの建物になっているかどうかを示すもので、中古住宅は新築時にその検査を受けていないことが多くあります。

図表3:検査済証取得率
グラフ
1998年(平成10年)当時に建築確認申請された建物の中で、新築住宅の完成時に検査済証を交付されているものは4割程度と少ない(図:国土交通省のデータを元に中古住宅のミカタ編集部作成)

中古住宅の取引を行うときにはインスペクションを実施し、現状の建物の状況をできるだけ把握しておきましょう。

(2) 事後トラブルを未然に防げるから

中古住宅の売買契約では、原則的に売主が「契約不適合責任」を負います。売買後に契約に適合していない不具合が発覚した場合、買主が1年(売主が宅建事業者の場合は引渡しから2年以上)以内に通知すれば、売主に対して契約に適合させるための修繕や代金減額などを請求できます。ただし特約により責任期間を短くしたり、責任を除外したりすることも可能です。事前にプロである第三者機関に検査してもらい、建物の状況を明らかにして買主・売主双方が共有・理解しておくことは、納得して取引するためにはとても大切なことだと言えるでしょう。

(3) リフォーム・リノベーション工事の予算を立てるため

中古住宅の購入時にリフォームやリノベーションを行う場合は、建物の状況によって必要な工事の内容が異なるため、現況把握のための検査が必要です。

また資金面でも、リフォームローンを住宅ローンと別に組むよりも、リフォーム一体型の住宅ローンを組むことで金利などが低くなることも多いようです。リフォーム一体型の住宅ローンを組むためには、売買契約前の仮審査の段階でリフォーム金額の目安が付いていなければ審査を申込むことができません。後から追加工事費がかかることを避け、正確な工事予算を見積もるためにも、検査は欠かせないでしょう。

(4) 将来的なメンテナンス計画、予算計画を立てるため

さらに購入後も快適に住み続けるためには、定期的なメンテナンスが大切です。将来的なメンテナンス計画を適切に立案し、購入後のランニングコストとなる修繕費用を見積もっておくためにも、検査で現況を正確に把握しておくことが有効でしょう。

(5)「かし(瑕疵)保険」に加入できるから

インスペクションの結果、一定の基準を満たしている場合、あるいは不具合や欠陥が見つかった場合でもこれを修繕することにより「かし(瑕疵)保険」に加入できます。かし(瑕疵)保険とは、引渡し後に発覚した基本構造部分の不具合・欠陥などに対する補償が受けられる保険です。特約により、給排水管なども対象とすることができ、取引を仲介する不動産会社か、検査機関が保険加入者となります。

中古住宅の取引においてはかし(瑕疵)保険への加入は任意ですが、買主・売主はもちろん、不動産会社においても万一のリスクを軽減できる仕組みです。せっかく検査を行うのであれば、かし(瑕疵)保険に加入できる「瑕疵保険検査」を行うよう不動産会社などに相談することをおすすめします。

(6) 不動産会社独自の検査では足りないことが多い

数年前から仲介をする大手不動産会社を中心に「◯◯保証」というサービスとセットで、その会社の負担で検査や補修をしてくれるサービスが展開されています。ところが、これらのサービスは不動産会社に専属・専任媒介をお願いしないと利用できない、あるいは「検査」についてはその会社の営業担当者の目視確認のみであるなど、検査してもらえるかどうかや検査の品質への懸念も見られます。

仲介をする不動産会社の営業担当者は不動産取引のプロではありますが、建物や建築のプロであるとは限りません。正確な現状把握のためにも、信頼できる第三者機関のプロ(建築士・既存住宅状況調査技術者など)の目で確実に検査をしてもらうことをおすすめします。

「検査(インスペクション)」をした方がいい6つの理由
  1. 「見えない」箇所、現状の建物状況を把握するため
  2. 事後トラブルを未然に防げるから
  3. 工事の予算(修繕費、リノベーション費用)を把握するため
  4. 適切な修繕や改修計画、メンテナンス計画を立てるため
  5. 「かし(瑕疵)保険」に加入できるから
  6. 不動産会社独自の検査では足りないことが多い

3. 中古住宅の「検査内容」とは?具体的に何をするの?

インスペクションは、基本的に国土交通省のガイドラインに沿って住宅の劣化事象の把握をするために実施されます。検査方法や検査対象は、次の通りです。

検査方法

中古住宅のインスペクションは、基本的に非破壊調査です。壁や床、壁を破壊して内部まで調査することはありません。劣化事象の原因特定や性能を把握するためのインスペクションでは破壊調査を含めた詳細な検査が行われることもありますが、売買前の状況把握を目的としたインスペクションでは、専門家が目視や触診、機材を用いた計測によって検査を実施します。

検査対象

インスペクションで確認する劣化事象は、基本的に以下のようなものです。

  • 構造耐力上の安全性に問題のある可能性が高いもの
  • 雨漏り・水漏れが発生している、あるいは発生する可能性が高いもの

具体的には、一戸建て、マンション、それぞれで次のような部分が検査対象となります。

一戸建て住宅の検査項目の一例

  • 小屋組、柱・梁、土台、床など構造耐力上主要な部分のシロアリ被害、腐朽、腐食、欠損、接合不良
  • 床、壁、柱の傾斜
  • 基礎のひび割れ、欠損、腐食
  • 外部、内部の水漏れ、雨漏り
  • 給排水管の水漏れ、詰まり、接続不良、換気不良

共同住宅(マンション)の検査項目の一例

  • 壁、柱、梁の腐食、傾斜、ひび割れ、欠損
  • 天井、内壁の水漏れ、雨漏り
  • 給排水管の水漏れ、詰まり、換気不良
  • 外壁、サッシの雨漏り、破損、欠損
インスペクションでは何をするの?
  1. 方法 目視・触診・計測によって検査
  2. 目的 中古住宅の劣化事象の確認・把握
  3. 対象 中古戸建て・中古マンションの構造耐力上主要な部分・雨漏りや水漏れが発生する可能性がある部分

4. 検査をしたい!いつ、誰に頼めばいいの?依頼方法は?

中古住宅のインスペクションの目的は、あくまで状況の把握であり、買主や売主が優位に立つために実施するものではありません。ただし、近年、住宅価格の高騰やリノベーションの普及により、中古住宅を積極的に活用したいという要望が高まっています。中古住宅の状況をできる限り把握する検査を行うことは、買主の不安を払拭するだけでなく、適正な評価をして安心な取引につなげたいと考える売主にとっても有効であると考えられます。ここでは、検査をしたい場合の依頼先や方法について紹介します。

依頼先、問い合わせ窓口

検査の申込み方法は、次の2つに大別されます。

  • 自ら検査機関に申込む
  • 不動産会社を通して申込む

売主はまず、仲介を依頼している不動産会社に相談してみましょう。その会社が対応できない場合は、自ら検査機関に申込むことで検査が可能です。

一方、買主が実施したいと考えた場合、引渡し前の段階では売主の承諾がなければインスペクションを実施することができません。売主の協力が不可欠であることから、かし(瑕疵)保険と合わせて検査会社に依頼をすることで双方のメリットにつながることを売主側に伝えましょう。また、仲介に入る不動産会社がかし(瑕疵)保険を推奨している会社であれば、よりスムーズかもしれません。

検査をしてくれる人

実際に現場で検査を行う人は、建築士の資格を有し、一定の講習を受講した検査のプロです。検査人は「インスペクター」や「既存住宅状況調査技術者」と呼ばれることもあります。

依頼のタイミング

売主がインスペクションを依頼するのであれば、売却を考え始めたタイミングで早めに検査をすることで、正確な状況把握と補修が必要と考えられる場合の対策をスムーズに行うことができます。 買主からインスペクションを依頼するのに適切な時期は、売買契約前です。さらに「購入申込後」がベストのタイミングだと言えます。先述の通り、インスペクションの実施には売主の承諾が必要です。「購入したい」という意思を示すことで、承諾してもらえる可能性が高まります。

インスペクションの依頼先
  1. 依頼先 検査機関または不動産会社。買主側が希望する場合は売主側の承諾が必要
  2. 検査人 建築士の資格を有し、一定の講習を受講したインスペクター
  3. 依頼時期 売主は売却を考え始めたとき、買主は購入申込後かつ売買契約前がベスト

5. 検査を活用して中古住宅の安心な取引を実現しよう

中古の車や洋服、バッグを購入する前には、必ず状態をチェックするはずです。住まいにおいても、できる限り正確に状態を把握することは、取引の大前提だと言えるでしょう。特に中古住宅は品質に差があり、金額も大きいことから、購入前に第三者のプロに検査してもらう重要性は高いと考えられます。

さらに、中古住宅のインスペクションは、基本的に非破壊検査です。売主の承諾が得られない限りは壁を剥がして内部まで確認することはできません。天井や床下、壁の中など、見えない部分の不具合に備えるには、そして、取引の時点だけではなく将来の安心も確保するには、検査とセットでかし(瑕疵)保険などの保証を付けることが欠かせません。

かし(瑕疵)保険加入への検討も含めてインスペクションを活用し、中古住宅の安心な取引につなげていきましょう。