中古住宅のススメ

新築よりも中古住宅の取引件数が増えている!住まい選びの最新事情

多くの不動産サイトやニュースなどを見ていると、「中古住宅の取引件数が増えている」「中古住宅に注目が集まっている」という話をよく耳にします。どうして新築物件よりも中古物件が増えているのか、また中古住宅を購入して本当に大丈夫なのか。そして、この「中古住宅のミカタ」を開設した背景とは。

本記事では、近年の中古住宅を取り巻く状況について紹介しながら、「中古住宅+リノベーション」と「新築住宅」の特徴について比較しながら言及します。

1. 〜はじめに〜「中古住宅のミカタ」を開設した背景と見方

はじめに、「中古住宅のミカタ」を開設した背景とこのサイトの見方・読み方について説明します。

社会的意義の高まり

近年、空き家が増え、社会問題になっていることは多くの人の知るところでしょう。1993年には447.6万戸だった空き家の数は、2018年には2倍近い848.9万戸にまで増えています。この時点で空き家率は約13.6%、約7.5軒に1軒が空き家という状況で、これからますます空き家は増えると見込まれています。空き家が増えると街が荒廃するだけではなく、不動産価値も大きく下落する可能性が出てきます。

図表1:日本の空き家件数の推移
グラフ
2018年時点で空き家の数は約849万戸、空き家率は13.6%に(図:総務省統計局のグラフを元に中古住宅のミカタ編集部作成)

空き家増加の背景には、堅固な造りの古い住宅を大切にメンテナンスしながら住み継いできた欧米諸国の住宅文化に対して、日本ではローコストの新しい家を望み、まだ十分に使える住宅を短い年月で使い捨てにしてきた「新築偏重」の住宅市場がありました。

しかし、時代の経過とともに人びとの意識も変化し、ライフスタイルや価値観の多様化も進んでいます。SDGsという概念が象徴するように、既にあるものを活用しようというサスティナブルな社会の実現に向けた機運も高まってきました。住まいにおいてもメンテナンスをしながら長く使う、いまある住宅を大切に受け継ぐ、という考え方が広まってきており、中古住宅を選択することは、地球環境への配慮や空き家問題の解決策の一つとしても社会的意義のあることでしょう。このような背景も中古住宅に目を向ける人が増えたことの一つの理由だと言えます。

「中古住宅のミカタ」が目指すところ

一方で、中古住宅に不安を抱える人もいます。多くの人が中古住宅において特に不安を感じるのは「見えない部分」の不具合、特に構造部分の劣化により、住宅の安心・安全に影響を及ぼすリスクや漏水など基本性能に関わる部分ではないでしょうか。見える部分の劣化はハウスクリーニングやリフォーム・リノベーションで綺麗にすることもできますが、躯体部分の重大な不具合や漏水などは建物の寿命や性能にも関わります。

さらに、中古住宅の売主の多くは一般の個人です。個人が売主の物件には重要なかし(瑕疵)があった場合に売主が負う「契約不適合責任」の取り決めが任意(通常は3ヶ月程度が多い)となり、何もしなければ新築住宅に見られる品質表示や手厚い保証などはありません。これも、中古住宅に不安を感じる要因だと考えられます。

そこで私たちは一人ひとりが望む快適な生活とライフスタイルを実現するために、この「中古住宅の不安」を解消し、「中古住宅の安心でスムーズな取引」へとつなげる知識やノウハウ、取り組みを伝えたいと考え、この「中古住宅のミカタ」を開設しました。

「中古住宅のミカタ」の見方

「中古住宅のミカタ」では、6つのカテゴリーを大きく2つに分けて中古住宅の売買に関する情報を紹介しています。中古住宅を買いたい人、売りたい人、基礎的な知識・ノウハウを伝える「中古住宅のススメ」と「検査・保険・保証」。そして、専門家が教える日本の不動産業界のウラ話や最新事情、中古住宅の売買を実際に経験した人たちの実例などを扱う「買うコツ」「売るコツ」「トラブル事例」「お金のミカタ」。

中古住宅の安心な取引のためには、売りたい人と買いたい人が相互に正しい知識をもって取引に臨むことがとても大切です。何から取り組めばよいかわからない人は「中古住宅のススメ」から、または興味のある部分や課題に感じるテーマから自由にご覧頂き、中古住宅の取引にお役立てください。

2. 中古住宅の取引が増えている!なぜ?

先に紹介した通り、近年、日本では空き家が増え、それと同時に中古住宅の取引が増えていることは周知の事実となっています。それではもう少し詳しく、中古住宅の取引が増えている背景・理由について見てみましょう。

新築住宅の供給戸数が減っているから

中古住宅が増えている背景には、新築住宅の供給数が減っていることが挙げられます。戦後長く続いてきた「新築至上主義」のもと、住宅業界は新築住宅を大量供給することで成長してきました。ところが近年、2015年をピークに日本全体で人口減少が始まり、また少子高齢化により住宅業界は大きな変化をむかえ、約25年の間に1996年の過去最高水準から半分近くまで減少しています。

新築マンションは、1994年のピーク時には全国で19万戸近く分譲されていましたが、2021年の販売戸数は8万戸弱。この約30年で、供給数は半数以下になっているのです。新築戸建てにおいても、マンションと同様に、供給数は大幅な減少傾向にあります。

図表2:新設住宅 着工戸数の推移
グラフ
新築住宅の着工戸数(=供給数)は年々減り続けている(図:国土交通省の統計を元に中古住宅のミカタ編集部作成)

中古住宅や空き家は増えているから

一方で、先に紹介したように新築志向の強かった日本では、新しい住宅が競うように建設されてきたため、人が住み、中古となった住宅のストック数は増える一方です。1993年には4,588万戸だった住宅ストック数は、2018年には6,241万戸にまで増えています。これは日本の総世帯数5,400万世帯に対して約16%も多く、「家あまり」の状態が続いています。

図表3:日本の住宅ストック数と総世帯数の推移
グラフ
住宅ストック数(中古住宅)は増え続けている(図:国土交通省の統計を元に中古住宅のミカタ編集部作成)

3. 中古住宅が注目される4つの理由

さらに中古住宅に注目が集まっている理由として、これまで見てきた件数自体の増加に加え、次のような新築住宅にはないメリットが挙げられます。

理由1:新築住宅より物件価格が「安い」

中古住宅の最大のメリットは、新築住宅と比較して安価なことです。

近年、新築住宅は、人件費や建材価格、物流コストの高騰や資材不足などにより高騰しています。特に新築マンション価格の高騰は著しく、2022年10月の平均価格は中古住宅の1.4〜2倍ほど。都市部の新築マンション価格は、一般的な収入のサラリーマンには手が出せない水準にまで達しています。

新築住宅の高騰、そして、世界的な物価高に際し、家計の負担が大きく減らせる中古住宅の魅力はより一層増していると言えるでしょう。

図表4:【2022年10月】新築住宅・中古住宅の平均成約価格
新築住宅 中古住宅
首都圏 近畿圏 首都圏 近畿圏
一戸建て 4,350万円 3,550万円 3,847万円 2,944万円
マンション(/m2 99.5万円 83.5万円 69.4万円 41.3万円
(出所:(株)東京カンテイ(株)不動産経済研究所(公財)東日本不動産流通機構(公社)近畿圏不動産流通機構

理由2:供給数が多い、立地条件がよいなど「選択肢が多い」

近年は、供給数の少なさから、エリアや価格帯を絞って新築住宅を探すことが難しくなっているため、中古住宅を含めて家探しをすることで選択肢は大幅に増えます。また、中古住宅は総じて立地条件がよいという点も魅力の一つ。駅近や人口が多いエリアの土地の希少性は年々高まっており、再開発や大規模施設の立ち退きなどがなければマンションや宅地を造成できません。つまり、立地のよさは「先行者利益=中古住宅のほうが優位」と言えるわけです。

理由3:眺望や日照、通風など「実物」を確かめてから購入できる

マイホームを取得する人の多くは、物件自体の広さや快適性のみならず、本来は周辺環境や隣人、管理状態なども重視するはずです。

新築住宅は建築前に契約することも多く、実際の眺望や日照、通風などがわからないまま購入を決めなければならないことも少なくありません。一方、中古住宅は「実物」を見たうえで購入を検討できます。売主から、隣人の様子や町内会、管理組合の状況、住んでいる人しかわからない周辺環境などを聞くこともできるでしょう。

高額なマイホームを購入した後に最も避けたいのは「こんなはずでは……」と後悔することではないでしょうか。実物を見てから購入できる中古住宅は、新築住宅と比較してこのリスクが低いと考えられます。

理由4:「リノベーション」市場の発展により“自分らしい暮らし”の実現度が高まる

リノベーションとは、中古住宅のよい部分や使える部分を活かしながら、直すべき部分を改修すること。例えば、電気・水道・ガスなどのライフラインの整備やセキュリティ面の強化を図りながら、ライフスタイルに合わせて間取り変更や内外装の変更を行うことも可能です。リノベーションによって新築住宅にも劣らない性能・快適性を実現しながら、自分らしいこだわりの住まいを実現することができるのです。

図表5:リノベーション住宅のイメージ
概要図
リノベーションによって、中古住宅をより快適な住まいへと生まれ変わらせることができる(図:(一社)リノベーション協議会の図を元に中古住宅のミカタ編集部作成)

さらに断熱性能と耐震性能を向上させる「性能向上リノベーション」も近年、注目を集めています。冬は暖かく、夏は涼しく、健康的で快適に暮らしながら地震に備えた安心・安全な住まいになることはもちろん、省エネルギーな家は地球環境にも優しい住まいとなります。

図表6:求められる断熱等級の変遷
表
住まいの断熱性能基準も年々レベルアップしている。上表の数値は断熱性能を示すUA値の基準値をいい、値が小さいほど断熱性能が高いとされる。(図:性能向上リノベの会の表を元に中古住宅のミカタ編集部作成)
中古住宅が注目されている理由
  1. 新築住宅の供給が減り、中古住宅は増えている
  2. 新築住宅の価格高騰に対し、中古住宅は物件価格が「安い」
  3. 選択肢が多く、立地条件のよい物件も
  4. 実物を見て購入でき、住環境の情報なども収集しやすい
  5. リノベーションにより自分らしいライフスタイルを実現できる可能性が高い
  6. 「性能向上リノベーション」で健康・快適な暮らし、地球環境に優しい住まいに

4.「中古+リノベ」vs「新築」比較の決定版!

これまでの説明で中古住宅のメリットについてはある程度理解できたのではないでしょうか。それでは、先に紹介した点も含めて、住まいのもう一つの選択肢である新築住宅と特徴の違いを比較しながら確認してみましょう。

図表7:「中古住宅+リノベーション」と「新築住宅」の特徴
ポイント中古住宅+リノベーション新築住宅
価格新築よりも安い一般的には中古よりも高い
立地・周辺環境選べる、見学時に確認できるある程度限られる
新しさ築年に応じた劣化などの可能性新しい
耐震性・2000年築以降なら新耐震をさらに強化した基準を満たす
・1982年築以降は新耐震基準を満たす
・1981年築以前(旧耐震基準)は要確認
新耐震基準をさらに強化した2000年基準を満たす
眺望・日照・通風見学時に確認できる・建売住宅、マンションでは確認が難しいことが多い
・注文住宅なら確認しながら設計できる
コミュニティ見学時に売主から確認できる・建売住宅、マンションでは同時入居で一から築ける
・注文住宅なら土地購入時などに売主から確認できる
間取り・
空間づくり
リフォーム・リノベーションで自由に変更できる
ただし、構造やマンションの場合、規約等により改修できないことも
・建売住宅、マンションでは変更が難しい
・注文住宅なら自由度が高い
セキュリティリフォーム・リノベーションで要対策最新のセキュリティ設備が施されていることも
保険・保証・売主が個人(宅建事業者以外)の場合: 契約不適合責任の範囲・期間のみの保証(通常3ヶ月程度の期間かつ範囲が限定的)

・売主が宅建事業者の場合: 契約不適合責任は2年以上の契約で定める期間の保証(事業者により差異あり)

※売主が個人、宅建事業者のいずれに関わらず、その責任をカバーするかし(瑕疵)保険の仕組みがある(最長5年、1,000万円まで)
アフターサービス規準などは各社により異なるが、住宅の基本構造部分は法律により原則10年間の保証義務あり。それ以外については提供会社により内容が異なる

ここでこれまで紹介できていない「耐震性」「コミュニティ」「保険・保証」について補足します。

耐震性

耐震性については国で設けられた「耐震基準」を満たしているかどうかによってある程度の確認をすることができます。耐震基準は、建築基準法で定められている最低限満たさなければならない建物の耐震性能のことですが、建築基準法はこれまでに何度か改正されています。

大幅な見直しがあったのは、1981年。それまでの耐震基準は「震度5程度の揺れで全壊しない」ことを目的としていましたが、1981年の改正以降、耐震基準の目的は「震度6以上の揺れで全壊しない」ことに変わりました。さらに木造住宅に限っては2000年にも大きな改正がありました。「2000年基準」や「新・新耐震基準」と言われるこの基準では、地耐力や接合部、偏心率を考慮し、新耐震基準以上の耐震性が求められています。

1981年の改正前の耐震基準は「旧耐震基準」、改正後の耐震基準は「新耐震基準」と呼ばれています。耐震性が大きく異なることはもちろんですが、耐震基準の違いは住宅ローンの組みやすさや住宅ローン控除を受けられるかどうかにも影響します。

コミュニティ

立地や周辺環境、眺望・日照・通風などと同様に、これまで住んできた人のいる中古住宅だからこそ確認できる情報に「コミュニティ」の情報も挙げることができます。近所との付き合いはどうか、どんな自治組織が存在するのか、地域の清掃や防災活動などはどのように行われているのか、地域の人と交流できるような場所や仕組みがあるのかなどを、売主や前住人に確認できると、入居後の暮らしをイメージしやすくなるでしょう。

一方、新築住宅の場合、注文住宅であれば同様に土地の売主や前住人から確認することができますが、新築マンションや建売の一戸建ての場合は、同時期に分譲された住戸とともに一からコミュニティを築いていくことになります。

保険・保証

不動産の売主が負う責任として「契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)」があります。売買後に契約に適合していない欠陥や損傷が発覚した場合、原則的に買主が知った時点から1年以内(売主が宅建事業者の場合は引渡日から2年以上の定められた期限内)に通知すれば、売主に対して追完(契約に適合させるための修繕など)や代金減額などを請求できます。ただし、売主が個人の場合、契約不適合は任意規定です。つまり、契約者同士の同意があれば、免責(責任を問われない)としたり、期間を短くしたり長くしたりすることができます。

中古住宅では、このほかに不動産会社(エージェント)や損害保険会社などが設けている建物やその設備、シロアリなどに対する保険・保証など、さまざまなサービスがあります。

新築住宅では、建築・販売する会社がそれぞれ設けている保険・保証のほか、住宅の基本構造部分の不具合を10年間保証することが義務づけられているだけではなく、「かし(瑕疵)保険」への加入または保証金の供託のいずれかの措置が義務付けられています。この「かし(瑕疵)保険」は中古住宅においても加入を検討することができます。

5. 中古住宅の不安やリスクを回避し、安心な物件を購入しよう

中古住宅は、新築住宅と比較して割安で、選択肢が多く、実物を見てから購入できるというメリットがあります。一方で、中古だからこその不安も少なからずあるはず。中古住宅の不安の多くは「わからない」「見えない」ことによるものです。

中古住宅の正しい取引の知識を持ち、検査(インスペクション)や保険・保証によって重要な部分の不具合をカバーできれば、不安の軽減につながることでしょう。買う人・売る人双方が正しい知識を身につけ、リスクを回避して安心な中古物件を購入し、新たな生活をスタートさせましょう。