不動産を売却する際に多くの人が悩むのが「いくらで売れるのか」という点です。相場を知らずに売却活動を始めると、相場より安く手放してしまったり、逆に高すぎる価格で売り出して売却が長期化してしまうリスクがあります。
そこで家を売却するときの相場の調べ方や価格の決め方、そして相場より高く売るためにできることについて、価値住宅(株)の高橋正典(たかはし まさのり)が前編・後編の2編に分けて解説。前編では、相場の成り立ちや査定方法、自分で相場を調べる手段について紹介しました。
後編となる本記事では、実際に売却を進めるうえで重要となる「売り出し価格の決め方」や「相場より高く売るための工夫」などに焦点を当てて紹介します。
1. 売り出し価格の決め方
不動産は査定額で売り出さなければならないわけではありません。希望金額と、売却にかけられる期間や妥協できるラインを明確にしたうえで、戦略的に売り出し価格を決めていきましょう。
まずは「売りたい期間」を明確にする
適正な売り出し価格は、売りたい期間によっても変わってきます。売却に時間をかけられる場合は、やや強気の「チャレンジ価格」で売り出してみるのも一つの方法です。一方、住み替えなどで売りたい期日が決まっている場合は、その期日から逆算して価格を決める必要があるでしょう。
近年の平均成約期間は、おおむね90日です。一つの目安として、3ヶ月より早く売りたいのであれば、査定額を少し下回る金額で売り出すことも検討したいところです。どの程度安く売り出せばいいかは、価格帯や地域の需要、競合の動向などによるところですが、査定額から1割前後下げた金額が現実的でしょう。2割〜3割低い金額でも早く確実に買い取ってもらうことを希望するなら不動産会社の買取も視野に入ってきます。
逆に半年程度かけても構わないのであれば、一定期間チャレンジ価格で売り出してもいいかもしれません。ただし、不動産は高く売り出せば高く売れるものではないため、高く売り出す場合も相場より2割も3割も高い金額にすることは現実的ではありません。
時間をかけられる状況でも「半年」を売却期間の目安に
売却に時間をかけられる状況であっても、一定の流動性のあるエリアであれば「半年」程度で売り切ることを目安にしたいところです。販売期間が長引くと、「売れ残り物件」というマイナスのイメージがついてしまう可能性があります。結果として相場より価格を下げざるを得なくなるケースもあるため、販売戦略を立てる際には期間もイメージすることが大切です。
売り出し価格だけでなく「戦略」も考えておく
計画的に売り出し価格を決めたとしても、その金額のまま成約にいたるとは限りません。したがって、売り出し価格とは別に「ここまでなら譲歩できる」という着地点の価格も考えておくことをおすすめします。
たとえば、着地点が相場通りの5,000万円であれば、1割高い5,500万円で売り出し、3ヶ月の販売期間の中で1〜2度、1回あたり200〜300万円程度の値下げをしていくと想定しておけば、希望する期間に売却できる可能性が高く、なおかつ場合によっては高く売れる可能性もあります。
売り出しを開始する時が最も物件への注目度が高いタイミングのため、有効に活用できるよう戦略を立てましょう。
2. 相場より高く売るためにできる5つのこと
不動産が相場より高く売れるかどうかは「売り方」次第です。物件の状態などに合わせて、次の5つの施策などを検討してみましょう。
1.競合物件の動向を探る
競合物件の有無やその価格が、売値に大きく影響する要素であることは先述の通りです。不動産を相場より高く売るためには、まず立地・築年数・間取りなどが類似している競合物件の動向をしっかり把握する必要があります。
特に、競合物件が買取再販物件の場合は要注意です。買取再販物件とは、不動産会社が買い取った物件を改修して再販している物件を指します。
不動産会社はプロジェクトの一つとして買取再販物件を販売しており、融資にも期限があるため、売れなければどんどん値下げしていきます。競合物件の値段が下がっていけば、相対的にこちらの物件の心証は「割高」になります。明らかに安い競合物件が売りに出ている場合は、その物件が売れるまで売り出しを待つのも選択肢の一つになってくるでしょう。
<キーワード解説・用語集>
買取再販<買取再販物件についてもっと詳しく>
不動産会社が販売するリフォーム・リノベーション済み中古住宅「買取再販住宅」ってどうなの?そのメリットは?2.ホームステージングを実施する
売り方によっても売れる金額が変わってくることがあります。その代表的な手法が「ホームステージング」です。ホームステージングとは、売却物件を家具や小物で演出し、モデルルームのように見せる方法で、物件の魅力を最大限引き出すことを目的に実施します。
実際に、ホームステージングを施したことで、条件面では南向きより不利とされがちな東向きのマンションが、同じ階の南向きのマンションと同等の金額で成約に至った例もあります。
家具や小物で演出すると言っても、高価な家具や調度品を飾る必要はありません。荷物を別の部屋に移動するなどし、家具の配置を変えるだけでも一定の効果が見込めます。
下記のBefore・Afterの写真は、手持ちのソファのカバーを外し、配置を変え、不要なものを他の部屋に移してクッションを追加しただけ。ローテーブルに置いたのは、娘さんのバイオリンです。これだけでもサイトに掲載したときの反響数は5倍程度に増えました。整理しただけですので、仲介手数料以外に売主さんにかかる追加費用などはありません。
<ホーム(バーチャル)ステージングについてもっと詳しく>
不動産売却へのDX活用の実態は?「AI査定」「Web広告」「バーチャルステージング」の効果を仲介会社に聞いた図:ホームステージングBefore・After

3.検査(インスペクション)を実施する
一戸建ては特に建物の評価がされにくい側面があるため「検査(インスペクション)」の実施が効果的です。
検査(インスペクション)とは、建物の専門家による基礎や外壁、雨漏りの跡や劣化、不具合の有無などの調査を指します。検査(インスペクション)の一つである「瑕疵(かし)保険適合検査」を受けたうえで合格した場合は「瑕疵(かし)保険」に加入することもできます。瑕疵(かし)保険は、購入後、建物の構造の重要な部分に不具合があることが判明した際に、補修費用等を補償してくれるものです。もし検査時に不適合があった場合は補修して合格すれば加入できます。
いずれも買主にとっては大きな安心につながり、検査(インスペクション)の実施や瑕疵(かし)保険の加入によって相場より高く売れた事例はいくつもあります。
<インスペクションについてもっと詳しく>
中古戸建て・中古マンションの 「検査」「インスペクション」って?何を検査する?中古住宅の「検査(インスペクション)」って何をするの?検査の流れやプロが使う道具を紹介!
一定の築年数を超える一戸建てを検討する人は建物の状態に不安を感じやすいことから、特に効果的です。ただし、検査や保険の意義を理解したうえで、その価値をアピールできる不動産会社でなければ、実施や加入の選択肢を提案することも、その効果を十分に発揮することもできない可能性があります。
そもそも既存住宅売買瑕疵保険に加入していない不動産会社もあります。こうした不動産会社は、建物の安全や売買した後の暮らしを軽視しているとも言えるので、避けるのが賢明でしょう。実際に瑕疵(かし)保険を利用するかは別として、既存住宅売買瑕疵保険の対応実績や提案の有無は、売却を依頼する不動産会社を見極めるためのポイントの一つとなります。
4.リフォームプランを買主に提案する
中古住宅を購入する人の多くは、リフォームやリノベーションを実施します。そのため、購入後の生活をイメージできるような提案があると、物件の魅力がぐっと高まります。
<キーワード解説・用語集>
リノベーション先日、弊社で駅から徒歩20分の古い団地の一室を売却しましたが、相場から見込まれる価格はどう見ても500万円程度。しかし、売主はすでに郊外に移住しており、住宅ローンを完済するには最低でも700万円で売らなければなりませんでした。
弊社で行った施策は、購入検討者に向けたリフォームプランの提案です。イメージしやすいようVRでプランを作って販売活動したところ、700万円以上で売ることができました。
築古物件はもちろん、築15年を超えた物件には、購入後にリフォームすることを前提に検討する人が増えます。買主に購入後をイメージしてもらう提案ができるかどうかで、売値が大きく変わってくる可能性があります。
5.不動産会社・担当者を選ぶ
先の通り、不動産の評価は担当者によって少なからず差が出ます。特に中古戸建ての評価は差が開きやすく「築20年を超えているから建物はゼロ」とする担当者もいれば、性能や状態、検査の実施や保険の加入などを評価し、適正な評価をする担当者もいます。また、検査の実施や瑕疵(かし)保険の加入、リフォームプランをつけた売り方を提案・実施してくれるかどうかは不動産会社次第です。
一括査定サイトを利用するかはさておき、複数社の見解を聞くことは大切です。少なくとも2〜3社に査定を依頼し、査定額に加え、その根拠や評価ポイント、売却戦略などを比較しましょう。
不動産会社の担当者には、率直に「本当にこの金額で売れると思いますか?」「本当はいくらが適正だと思いますか?」などと尋ねてみるのもよいと思います。不動産を好条件で売るためには、担当者の本音が引き出せる信頼関係を築くことも大切です。
不動産会社のホームページからも、情熱や専門分野などを知ることができます。掲載されている情報や事例は、不動産会社を選ぶ際の判断基準の一つになります。
<一戸建てを高く売るための方策についてもっと詳しく>
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3. 相場より高く売るコツは「ポテンシャル」を最大限に引き出すこと
不動産の相場は相対的かつ流動的です。どのような状況においても法外に高く売れることはほぼありません。不動産会社は「高く売る」という表現を使いますが、私は「高く売る」ことよりも「物件の持つポテンシャルを最大限に引き出す」ことこそが満足できる不動産売却をするコツだと思います。物件の状態や価値、マーケットを正しく理解し、適切な売却戦略を講じることが大切です。