不動産を売却する際に多くの人が悩むのが「いくらで売れるのか」という点です。相場を知らずに売却活動を始めると、相場より安く手放してしまったり、逆に高すぎる価格で売り出して売却が長期化してしまったりするリスクがあります。
そこで本記事では、価値住宅(株)の高橋正典(たかはし まさのり)が、家を売却するときの相場の調べ方や価格の決め方、そして相場より高く売るためにできることについて前編・後編の2編に分けて解説します。前編の本記事では、相場や査定額の決まり方について、不動産業界の実態もふまえて紹介します。
1. 不動産の価格・相場決定の基本原理と査定の限界はどう決まる?
不動産の価格は売主の希望だけで決まるものではなく、過去の取引事例や建物の状態、市場の動向など、さまざまな要素に左右されます。まずはその仕組みを理解しておくことが大切です。
ベースは取引事例との比較
収益物件を除く中古住宅の価格は、基本的に「取引事例」との比較をベースにして決めることが多いでしょう。取引事例とは、条件が類似している物件が過去に成約した事例です。
ただし、条件が全く同じ不動産は一つとしてないため、取引事例との比較はあくまでベースで、建物や設備の質や状態、リフォーム履歴、住宅性能などの評価が価格に反映されます。
不動産会社が建物の「査定」を行う際も、取引事例との比較が主になります。一般的には、売主は販売活動を依頼する不動産会社の査定額をもとに、担当者と相談しながら販売価格を決める流れになります。
建物の「状態」を評価するロジックは、ほぼないに等しい
建物の状態を評価する明確なロジックはありません。ただし、唯一、国土交通省が推奨する(公財)不動産流通推進センターが提供する「価格査定マニュアル」という査定方法があります。この査定方法を活用すれば建物や設備の質やリフォームなどの評価が価格に反映されますので、きちんと建物をメンテナンスしてきた売主にとってはメリットがあります。しかし、それを反映させることで一般的な「取引事例」による価格よりも高い金額が出ることも多く、できれば売主から低い物件価格で委任を取り、売れやすい価格で販売活動をしたいと考える不動産会社が使いたがらないという実態も存在します。
たとえば近年、マンションの「管理」が注目されていますが、管理状態が売値に反映されるケースもまだ限定的です。しっかり修繕費が積み立てられているマンションと積立金がまったく足りていないマンションとでは、前者のほうが価値は高いはずですが、管理状態が普遍的な価値基準の一つとして認識され、価格に反映されるにはもう少し時間がかかるかもしれません。しかし、今後は普遍的な価値基準になる可能性があります。
たとえば、複数の不動産会社に査定を依頼した際、会社ごとの査定額に大きな差が生じて驚くことがあるかもしれません。現状は、不動産会社の担当者の経験や感覚に基づいて査定されることが多く、これが各社の査定額に差が生じる大きな要因です。
実際の売値はマーケットの状況にも影響を受ける
不動産の価格は競合物件の有無など、ミクロなマーケットの状況に影響を受けやすいものです。特にマンションは、競合物件の有無や価格に大きな影響を受けます。競合物件とは、同時期に売り出されている、条件の近いライバル物件のことです。
たとえば、同じマンションの別の住戸が相場より安く売り出されている間は、自分の所有する住戸のみ相場より高く売ることは難しいかもしれません。また、マンションの管理状態は評価されにくいとはいえ、条件が類似している物件同士が比較されれば管理の行き届いたマンションのほうが選ばれやすくなります。そのため、管理状態が劣るマンションは売れやすくするために価格を下げるなど、一定程度は価格に影響する可能性もあります。差別化という観点では、建物や管理の状態が評価されることもあるでしょう。
当然、マクロなマーケットの状況も無視できません。近年の中古住宅の価格高騰は、株高や景気の改善、資材価格の高騰、それによる新築住宅の供給数の価格高騰や供給数の減少などが影響しています。特に都心部や好立地の物件は需要が高く、今後も価格の上昇が見込まれます。
2. 相場を知らないと損をする?自分でも調べられる?
先の通り、査定額には不動産会社の担当者の「感覚」が少なからず影響します。そもそも査定額は担当者が売れると推測する金額であり、その金額で売れることが保証されたものではありません。複数の不動産会社の中で自社を選んでもらおうと、査定額を意図的に操作する不動産会社もあるため、売主自身がある程度の相場感を身につけておくことが大切です。
不動産ポータルサイトをチェックする
自身で相場を調べる方法としては、SUUMO(スーモ)や HOME’S(ホームズ)、at home(アットホーム)などの不動産ポータルサイトで、自分の所有する不動産と近い条件の物件の売り出し価格をチェックするのが最も手軽です。
<不動産ポータルサイトについてもっと詳しく>
プロが教える「不動産ポータルサイトの見方・使い方」。メリット、活用時のコツや注意点を紹介!ただし、ポータルサイトに掲載されているのは「売り出し価格」であり、実際に売れた金額「成約価格」とは乖離がある可能性があります。首都圏の中古住宅の新規登録価格(売り出し価格)と成約価格は昨今、マンション、一戸建てともに5%前後の乖離があります。この乖離率はマーケットの状況によって変動しますが、乖離が大きい時には中古マンションで20%近く、中古戸建てでは40%ほどの乖離が生じている年もあります。
図表1:成約価格と売り出し価格(新規登録価格)の乖離率


不動産情報ライブラリで市場の動きを確認
国土交通省が運営するWebサイト「不動産情報ライブラリ」なら、売り出し価格ではなく成約価格が確認できます。成約価格に加え、公示地価や基準地価などのデータも掲載されています。
ただし、成約価格情報が更新されるまでにタイムラグがあり、公示地価や基準地価についても公開日と基準日には数ヶ月のタイムラグがあります。したがって「今」の相場ということで言えば、やはりポータルサイトを見るのが的確でしょう。一方で、不動産情報ライブラリは、価格の推移などから市場の動きを確認するのに適しています。
「AI査定」は信用できる?
「AI査定」は、機械的に不動産の査定額を算出するシステムです。不動産会社やITサービス会社が提供しており、多くが無料で利用できます。
独自に開発しているため精度には差があるものの、機械的に算出され、不動産会社の思惑などが入らないため「中立性はある」と言えるでしょう。多くのシステムは過去の取引事例と比較して価格を算出しているため、一定程度の信頼性もあります。
個別要素は考慮されないため、AI査定で出たそのままの金額で売れるとは考えないほうがいいですが、売れる金額の目安を知る目的で活用するにはいいと思います。ただし、メールアドレスなどの個人情報を入力しなければならないことが多いため、提供している企業の信用性などをしっかり確認してから利用することをおすすめします。
<AI査定についてもっと詳しく>
不動産売却へのDX活用の実態は? 「AI査定」「Web広告」「バーチャルステージング」の効果を仲介会社に聞いた3. 不動産の「一括査定」を利用しても大丈夫?
不動産の売却では、複数の不動産会社に一括で査定依頼できる「一括査定サイト」を利用する人も多いですが、仕組み上、どうしても高額な査定が出やすいという特徴があります。手軽に利用できて便利な反面、次のような点に注意して利用しましょう。
一括査定を利用すると、高額査定が出やすい
不動産会社の役割は不動産を売却することですが、査定依頼を受けた段階では、一時的に「机上査定から訪問査定に繋げること」や「媒介契約を取ること」が目的となります。「机上査定」とは、実際の物件を見ずに行う簡易的な査定です。一方、媒介契約とは、売主が不動産会社に売却を依頼するための契約を指します。
<媒介契約についてもっと詳しく>
不動産売却の成功を左右する【3つの媒介契約】を徹底比較。媒介契約の選択基準は?物件の特徴・目的別に紹介机上査定後、実際に物件を見て査定する「訪問査定」を経て、不動産会社と媒介契約を締結するのが一般的な流れです。不動産会社にとっては売主との媒介契約の締結がなければ、その先の売買契約や仲介手数料の受領に結びつかないため、まずはどのような不動産会社も媒介契約の締結を目指します。
不動産会社が売主にできる限り早く選んでもらう方法として有効なのが、高額査定を提示することです。もちろん全ての不動産会社ではありませんが、一括査定という仕組み上、価格で比較されることがわかっているため、不動産会社は高額査定を出す傾向がある点には注意が必要です。
<一括査定についてもっと詳しく>
一括査定サイトは要注意。その仕組みを理解せよ|5人のプロが教える!中古住宅【売却の極意10ヶ条】査定額以上に見るべきは「査定の根拠」
一括査定サイトを利用すると特に「査定額」に目が行きがちですが、査定額以上に大切なのは「査定の根拠」です。査定額を出すにあたって参考にした取引事例やプラス・マイナスの評価になった部分、そして「どう売却するのか」といった戦略を確認しましょう。
参考にした取引事例については「なぜこの事例を参考にしたのか」というところまで掘り下げて聞くことが大切です。これは、抽出した事例によって査定額に差が出るためです。
必要に応じて、担当者にレインズ(不動産流通機構の物件情報システム)の成約事例一覧を見せてもらうのもよいでしょう。裏付けを明確にすることで、査定額の妥当性をより客観的に判断できるようになります。
<キーワード解説・用語集>
レインズ<レインズについてもっと詳しく>
中古戸建て・中古マンションを【購入】するときに知って得する「基礎知識」一括査定は不動産会社を絞る目的で利用するのがおすすめ
一括査定は、相場を把握するためや不動産会社をすぐに決めるために使うというよりも、複数の会社を比較して候補を絞り込む手段として活用するのが望ましいと思います。
たとえば、まずは5〜6社に一括査定を依頼し、査定書の内容や精度、担当者の説明のわかりやすさ、やり取りの丁寧さや親身になって相談に乗ってくれるかなどを見比べます。続いて候補を2〜3社程度に絞り込み、訪問査定を依頼して詳しく査定の根拠を聞き、不動産会社を決めたうえで売り出し価格や売却戦略を練っていくのがよいのではないでしょうか。
4. まずは相場を理解することが、販売戦略を組み立てる第一歩に
不動産の売却価格は一見単純に見えて、取引事例や建物の状態、市場の動向など多くの要素が影響します。査定額も不動産会社や担当者の経験・姿勢によって差が出るのが実情です。だからこそ、売主自身が相場を理解し、自分でも調べる意識を持つことが重要です。
ポータルサイトや不動産情報ライブラリ、AI査定、一括査定などをうまく組み合わせることで、相場感覚を磨き、適切な売却戦略を立てる第一歩につながります。後編では、さらに実際に相場より高く売るためにできることを紹介していきます。