売るコツ

2度目の住宅購入!「住み替え」は売るのが先?買うのが先?スムーズに進める方法を専門家が伝授

村田 洋一

今の住まいを売却して新居を購入する住み替えは、2つの取引をほぼ同時に進めていかなければならないため、スケジュールや資金計画が複雑になりがちです。時間が限られることから妥協が生じてしまい、希望通りの価格で売れなかったり、新居に満足できなかったりする可能性もあります。その結果、住み替えた直後にまた住み替える……というケースも珍しくありません。

そこで今回は、らくだ不動産のマネージャー・トップエージェントで宅地建物取引士の村田 洋一(むらた よういち)が、スムーズかつ満足のいく住み替えの方法を解説します。

1. 住み替えが増加。「住宅すごろく」「終の住処」は終わった⁉︎

近年は住宅価格や地価の高騰から、住み替える人が増えています。「高く売れるのでは」と期待している人が多いのでしょう。加えて、ライフスタイルの変化、働き方の変化の影響も大きいと思います。

かつて「住宅すごろく」の終点はマイホームの購入でした。しかし現在は、家族構成や子どもの年齢の変化に応じて住み替える人も少なくありません。

現在、いくつかの地方自治体ではコンパクトシティ構想を推進しており、かつて人気だった郊外型の住宅地が評価されにくく、駅近の物件のほうが資産価値は高くなっています。郊外の一戸建てに住んでいた人が、子どもの独立や自身が高齢になってきたタイミングで駅近のマンションに住み替えるケースも多く見られます。

住み替えが増加!その理由は?
  • 市況がよいから
  • ライフスタイルや働き方の変化
  • コンパクトシティの推進

2. 売るのが先?買うのが先?住み替えが難しい理由

今すでに住まいを所有している場合の住み替え方法は「売却先行」と「購入先行」に大別されます。つまり「先に売る」か「先に買う」かということです。

お金の問題

今の住まいの売却を先行するとなると、資金を得たうえで新居の購入ができるため、新居の予算が立てやすくなるでしょう。しかし、先に今の家を売ってしまうと、新居の引渡しを受けるまで住む場所がなくなるため、仮住まいの期間が生じます。賃貸住宅に一時的に転居する場合は、その初期費用や賃料などが必要です。

一方、新居の購入を先行すれば仮住まいの必要はありませんが、今の家の住宅ローンが残っている場合は、2つの住まいの住宅ローンが重複する「ダブルローン」の状態になります。ダブルローンは融資の可否という点でも課題となり、ハードルが高くなる傾向にありますが、近年は住み替え前提であれば今の住まいのローン残債を返済比率から外して審査してくれる金融機関もあります。ただ審査は重複しないとしても、返済は重複することになります。「借りられる」からと言っても「返せる」とは限りません。

つまり、いずれの手段もそれぞれお金の問題があるのです。仮住まいやダブルローンの期間は、売買のタイミング次第。住み替えにいくらかかるか、支払いに耐えられるか、予想しにくい側面もあります。

スケジュールもネックに

いずれの手段も、購入と売却をほぼ同時に行うことになりますが、計画通りに売却できるとは限らず、タイミングよく理想通りの新居が見つかるとも限りません。仮住まいやダブルローンの負担から、いずれかの取引で妥協せざるを得ない可能性もあります。

高く売れる可能性はあるが、購入物件も高い

今は市況がよいため数年前の相場より高く売れる可能性が高いのですが、新居も予想以上に高騰している可能性があります。エリアや条件によっては在庫物件の数も少ないため、住み替え先が見つかりにくい可能性もあります。

住み替えが難しい理由
  • 仮住まいや2つのローン返済が重複する期間が生じる可能性があり、資金計画が難しい
  • 思い通りのタイミングで売却・購入できるとは限らず、スケジュール調整が難しい
  • 現在は市況がよく、今の家が高く売れる可能性はあるが、購入する物件も高い可能性がある

3. 売却先行・購入先行のメリット・デメリット

ここからは、売却先行・購入先行の具体的な方法とメリット・デメリットを見ていきましょう。

売却先行のメリット・デメリット

メリットデメリット
・妥協せずに売却できる可能性が高い・仮住まいの期間が生じる可能性がある
・購入する物件(住み替え先)を妥協しなければならない可能性がある

売却先行は売却に時間をかけられるため、条件面に妥協せずに今の住まいが売れる可能性が高いと言えるでしょう。しかし、売却の決済・引渡しまでに、新居の引渡しを受けられなければ、仮住まいを見つけなければなりません。

新居に転居するまでに仮住まいを挟むと、引越し回数が増え、引越し費用や仮住まいの家賃などの費用がかかります。また、仮住まい期間を短くしようと、物件探しを焦ってしまいがちです。結果として、妥協して物件を選ぶことにもなりかねません。

図1:売却先行の場合

今の住まいを売却して引渡した後、新居の引渡しを受けるまでの間、仮住まいが必要(図:中古住宅のミカタ編集部作成)

購入先行のメリット・デメリット

メリットデメリット
・じっくり住み替え先を選べる・ダブルローンになる可能性がある
・売却で妥協しなければならない可能性がある

購入先行は物件選びに時間をかけられるため、理想通りの住まいが見つけやすい住み替え方法です。しかし、今の家のローンが残っていて新居もローンを組んで購入する場合は、今の住まいが売れるまで住宅ローン返済が2つ重なることになります。

また、物件選びに時間がかけられるとはいえ、時間の経過とともにマーケットが変わり、想定していた金額で今の住まいが売れなくなる可能性もゼロではありません。マーケットの変動が大きくなかったとしても、住み替え先を購入する時点で今の住まいがいくらで売れるかわからない点はリスクとも言えるでしょう。

図2:購入先行の場合

今の住まいの住宅ローンが残っていて、新居も住宅ローンを組んで購入する場合、新居を購入し、引渡しを受けた後から今の住まいを売却して引渡すまでの間、2つの住宅ローンの返済が重なる「ダブルローン」の状態となる(図:中古住宅のミカタ編集部作成)

売却と購入の同日決済も可能だが、容易ではない

メリットデメリット
・仮住まい不要
・ダブルローンになることもない
・スケジュールを合わせるのが難しい
・「引渡し猶予の特約」や「買い替え特約」によって売りやすさ・買いやすさが損なわれる可能性がある
・購入、売却、いずれかで妥協しなければならない可能性がある

売却先行でも購入先行でも、2つの取引の決済日を同日に合わせることも可能です。同日に決済すれば、仮住まいの必要はなく、ダブルローンになることもありません。

しかし、今の住まいの買主や新居の売主、登記手続きをする司法書士、住宅ローンを融資する金融機関など、2つの取引の関係者は非常に多く、スケジュールを合わせることは容易ではありません。また、無理に2つの取引の決済日を同日に合わせようとすると、いずれかの契約条件に妥協しなければならなくなる可能性もあります。

同日に両物件を決済したとしてもすぐに転居はできないため、売却の契約に決済後数日間、引渡しを猶予してもらうための「引渡し猶予の特約」を付ける必要が生じる場合もあります。一方、購入の契約には、売却が白紙になった場合は契約を解除するという「買い替え特約」をつけることも。こうした特約は契約相手にとってはマイナスになるため、流動性や売値が下がったり、新居が見つかりにくくなることも懸念されます。

図3:売却・購入同時進行の場合

売却と購入の決済・引渡しを同日にすることで、ダブルローンの期間が生じず、今の住まいから新居に直接引っ越せる。ただし、売買の契約に「引渡し猶予の特約」や「買い替え特約」をつけなければならない可能性がある(図:中古住宅のミカタ編集部作成)
売却先行・購入先行のメリット・デメリット
  • 【売却先行】は売却に時間をかけられるため好条件で売れる可能性が高いが、仮住まい期間が生じるなどのデメリットがある
  • 【購入先行】は逆に購入に時間をかけられるため満足の行く物件選びがしやすい。一方、ダブルローンになる可能性がある
  • 【購入、売却の決済日を同日】にすることで仮住まい不要でダブルローンにならず住み替えることができるが、スケジュール調整が難しく、いずれかの取引で妥協しなければならない可能性がある

4. 売却先行と購入先行「どちらが向いているか」の見極めポイントは?

これまで見てきたように売却先行と購入先行には、どちらにもメリット・デメリットがあります。資産状況や住み替えに求めることなどによって、自分にどちらが適しているかは変わってきます。

住宅ローン残債・資産の状況

最近は50代、60代の人が住み替えることも少なくありません。50代以上であれば今の家の住宅ローンを完済していることも多く、資産が潤沢なことも。こうした人は、新居選びも売却もじっくり時間がかけられる「購入先行」が向いているでしょう。

逆に住宅ローンの残債が多く、資産も少ない状況であれば、売却をしてから住み替え先を検討したほうが資金面での不安が軽減されます。

購入する物件(住み替え先)へのこだわり

住み替える人たちを見ていると、住み替え先となる物件へのこだわりには個人差があります。あくまで傾向ですが、老後を見据えて郊外の一戸建てから駅近のマンションに住み替える人は、立地や広さ、予算などが希望に合っていれば、その他の条件にはあまりこだわらないケースが多いように思います。

一方で、子どもが増えてマンションから一戸建てに住み替えるような場合は、理想の暮らしができるかを吟味して物件選びをすることが多い傾向にあります。新居にとことんこだわりたいのであれば、新居選びにじっくり時間をかけられる「購入先行」が向いているでしょう。

ダブルローンに耐えられるか?

手持ちの資金や資産の状況から、ダブルローンに耐えられないのであれば「売却先行」で仮住まいに移ってからじっくり新居を探すのがおすすめです。今の住まいを売った後、仮住まいで腰を据えてじっくり探すのであれば、割高なウィークリーマンション、マンスリーマンション、更新ができない可能性のある定期借家契約よりも、2年などで更新しやすい一般的な普通借家契約の賃貸物件がよいと思います。そのときには、仮住まいの家賃を払えるだけの資金を残しておくように注意しましょう。

また、普通借家契約の物件に入居し、予想以上に早く新居が見つかって半年程度で転居することになると、短期解約違約金(賃料の1ヶ月分程度)を取られる物件が多い傾向にあります。

マーケットの状況

中古住宅が売れるスピードや金額は、マーケットに左右されます。金利や相場などマクロなマーケットの動きを予測することは簡単ではありませんが、近隣の競合物件の状況など、ミクロなマーケットの現状はある程度把握できます。

たとえば、売却しようとしているマンション内で売り出し中の物件が1件もないのであれば、好条件で売れる可能性があります。購入を先行して半年、1年経ったあとに売却した場合と比べて、今のほうが好条件で売れる可能性が高いのであれば「売却先行」のメリットは大きいと言えるでしょう。逆に、今後も相場価格が上昇すると考えられるエリアであれば「購入先行」のほうが適しているかもしれません。

売却先行と購入先行、向いているのはどっち?
  • 住宅ローンの残債がなく資産も潤沢の人は「購入先行」
  • 住宅ローンの残債が多く、資産も少なければ「売却先行」で確実な資金計画を
  • 新居へのこだわりが強い人は「購入先行」
  • ダブルローンに耐えられない人は「売却先行」
  • 競合物件がないなど、今高く売れる可能性が高い場合は「売却先行」
  • 今後も相場が上昇すると考えられるエリアであれば「購入先行」の検討も

5. スムーズかつ満足の行く住み替えにするためのポイント

私は20年近くこの仕事をしていますが、住み替え後、またすぐに住み替える人が少なからずいます。スムーズに住み替えられたとしても、新居に満足できなかったり、家計が苦しくなってしまったりすれば元も子もありません。満足の行く住み替えにするためにも、次の点に留意しましょう。

住み替えの「ゴール」を決める

売却先行にしても購入先行にしても、まずいつまでに住み替えたいか、何を目的に住み替えるのか「ゴール」を決めることが大切です。そのゴールから逆算して売却や物件探しを進めていきましょう。ゴールを決めることで、仮住まいやダブルローンの期間も明確になるため、資金計画も立てやすくなるでしょう。

また、売却については、住み替えにかけられる期間によって戦略が変わってきます。たとえば「半年後に住み替える」と聞くと余裕があるように感じられるかもしれませんが、広告掲載までの期間や売買契約から引渡しまでの期間を考慮すると、売却にかけられる期間は実質的に3ヶ月程度です。3ヶ月の間にできる現実的な値下げ回数は1〜2回であることを考えると、当初の価格設定が重要になります。

スケジュールばかりを重視しない

ゴールを決めて住み替えるべきとはいえ、スケジュールばかりを重視すると肝心な物件選びで妥協が生じる可能性があります。実際に最近も、住み替え先に満足できず、半年後にまた住み替えた人がいました。話を聞くと、半年ほどのスケジュールで売却を先行し、家が売れたあとに焦って物件を探して契約したようです。

購入だけであれば時間をかけて多様な物件を比較しながら検討できますが、ゴールとなる日時が決まっていると、どうしても焦ってしまうものです。売却についても、スピードばかりを重視すると、条件で妥協せざるを得なくなってしまう可能性があります。

購入も売却も検査(インスペクション)の実施がおすすめ

妥協しないためにも、購入する物件も売却する物件も、売買前の検査(インスペクション)をおすすめします。検査をして問題がなければ、瑕疵(かし)保険に加入できる可能性もあります。

買主は、売主方にしっかりと検査の実施をリクエストすることが大事です。一方、売却についても、検査をすることでより好条件で売れる可能性もあります。一手間かかり、数万円程度の費用がかかることにはなりますが、情報を開示することで予期せぬことが起こりにくいことから、買主にとって大きな安心につながります。

スピード感が求められる住み替えこそ、積極的に検査を取り入れるべきでしょう。いずれかの契約のトラブルがもう一方の契約にも影響しかねないことを考えれば、住み替えでは特に検査の意義が大きいと言えます。

購入物件(住み替え先)の希望は、動き出す前から考えておく

家の売却は、査定をして価格を決めて売り出せば、あとはある程度、自然に流れていくものです。一方、購入は自分たちが動かなければ進みません。

物件選びについては、まず希望や理想を明確にするまでに時間がかかります。実際に売却活動や内見を始める前に、家族で話し合って住み替え先に求めることを整理しておくことが大切です。

売却先行だとしても、売り出す前に内見してはいけないわけではありません。内見していくうちにイメージがわき、希望が明確になっていくこともあります。

購入先行でも、ファーストステップは売却査定

購入先行というと物件選びから住み替えがスタートするように思うかもしれませんが、ファーストステップは売却査定です。今の家がいくらで売れるかわからなければ予算も決められないため、売却先行にしても購入先行にしてもまずは不動産会社やエージェントに今の家の査定を依頼しましょう。

不動産会社・エージェント選びを重視する

購入と売却を1社や1人のエージェントに任せると、スムーズな住み替えがしやすい一方で、スケジュールなどをコントロールされてしまい、いずれかの取引で妥協せざるを得なくなってしまう可能性があります。

また、住み替えでは、仮住まいの手配など、売却のみ・購入のみの不動産取引にはない工程が加わることも。仮住まいの手配などにまで配慮してくれる不動産会社やエージェントばかりではありません。

十分に話ができていない段階で、たとえば「仮住まいは辞めたほうがいい」などと方針をコントロールするような不動産会社やエージェントには注意が必要です。スピードだけを重視して、顧客の希望や理想をないがしろにするエージェントの可能性があります。それを見極める意味でも「たとえば仮住まいをすることなども検討できるでしょうか?」と聞いてみるといいかもしれません。

スムーズかつ満足の行く住み替えにするためのポイント
  • 住み替えの「ゴール」を決める(いつまでに住み替えたいか)
  • スケジュールばかりを重視しない
  • 購入も売却も検査(インスペクション)の実施がおすすめ
  • 新居の希望は、動き出す前から考えておく
  • 購入先行でも、ファーストステップは売却査定
  • 不動産会社・エージェント選びを重視する

6. 売却先行と購入先行、それぞれのメリット・デメリットを理解して満足のいく住み替えを

売却先行も購入先行も、一長一短。一概にどちらがよいとは言えません。資産状況や新居に求めることを家族で話し合い、自分たちに合った住み替え方法を検討してみてください。

住み替えは、暮らしをよりよくするためのものであるはずです。スムーズに住み替えることも大切ですが、購入と売却にじっくり向き合い、満足のいく住み替えを目指しましょう。

村田 洋一 (むらた よういち)
行政書士として不動産トラブルの相談を多数受けていた中で、日本の不動産仲介業界の不透明さを強く実感。消費者にとって一番良い不動産取引を目指すべく、欧米型エージェント制度を導入した不動産会社、AI×リアル(不動産)を促進する大手不動産会社の各創業に参画。以後、全国にエージェント制を広めるために、らくだ不動産に入社。不動産売却のプロとして、今まで3,500件を超える相談に対応。モットーは「正しく、フェアに、透明性を持った仕事を」。