住宅価格や建築費の高騰を背景に、住まいの選択肢として中古住宅が注目されています。そのなかで「自分の手で住まいを整えたい」という思いから、DIYに挑戦する人もいるでしょう。
しかし、住まいの改修は専門知識や法規制が関わる部分もあり、挑戦する場合には、注意が必要なことも。どこまでがDIY可能で、どこからがプロの領域なのか。本記事では、内装建材を販売するウェブストア「toolbox」を運営する(株)TOOLBOXの一杉伊織(ひとすぎ いおり)が、実際の事例とともに、DIYとプロの仕事の境界線を解説します。
1. 「DIY」が改めて注目されている理由
中古住宅やリフォームが注目されるなかで、DIYはコスト削減という目的に加え「自分の暮らしを自分で整える方法」として関心が高まっています。
住宅購入価格、リフォーム費用は高騰傾向
近年、住宅価格が大きく高騰している影響もあり「住み替えや引越しはせず、今の家をより快適に整えたい」と考える人が増えています。加えて、建築費も年々上がっており、職人不足や人件費の上昇も相まってリフォーム費用も高騰傾向にあります。
建設工事費の変動を示す「建設工事費デフレーター(2015年比)」は、2025年4月時点で130.1。体感的にも、リフォーム費用はこの10年ほどで3割程度上がっているように感じられます。
図1:建設工事費の推移

リフォームのニーズは高まっている
住まいに向き合うきっかけの一つに「ライフスタイルの変化」がありますが、ライフスタイルの変化に柔軟に対応するためには、住み替えよりも今の住まいをリフォームするほうが現実的、合理的と考える人も少なくありません。たとえば「子どもが成長したので部屋を増やしたい」という要望や、逆に「子どもが独立したので部屋数を減らしたい」というケースは多く、こうした暮らし方の変化に合わせたリフォームの需要が高まっています。
さらに、新築住宅の高騰や供給数の減少から中古住宅の取引が増えていることもあり、中古住宅を購入する時に、家族の好みやライフスタイルに合わない箇所を部分的に改修したいという声も増えています。
図2:ライフスタイルの変化に伴うリフォーム事例
Before

After

図3:好みに合わない箇所を部分的に変えたリフォーム事例
Before

After

「ちょっとしたリフォーム」は相談できる窓口が少ない
増改築や断熱・耐震といった性能向上リフォームであれば、工務店や建築会社が請け負ってくれます。間取り・設備・内装などを一からつくり直す、フルリノベーションを請け負うリノベーション会社も増えています。また、水周り設備の交換やクロスの張り替えなど「○○専門」といったリフォーム会社も数多く存在します。しかし、部屋を仕切って子ども部屋をつくりたい、収納を増設したいなど、ライフスタイルの変化に合わせた小規模な工事、いわゆる「ちょっとしたリフォーム」を引き受けてくれる会社は決して多くありません。
そうした、暮らしながら見えてくる住まいの課題を「どう解決すべきか」という段階から気軽に相談できる窓口も少ないのが現状です。工務店や建築会社は一般の人にとって敷居が高く感じられやすいうえ、間取り変更や設計提案を必要とする小規模工事となると、近年の人材不足の影響もあって、工務店や建築会社としても対応が消極的になってしまいがちなのです。結果として「ちょっと変えたい」というニーズに応える受け皿が不足しているのが実情と言えるでしょう。
やれることはやってみよう
リフォームの内容によっては専門的な知識や法規制への対応が必要になりますが、自分でできそうな範囲であればDIYに挑戦するのもおすすめです。DIYは単なる作業ではなく「空間を豊かにする行為」です。家は経年とともに劣化していきますが、暮らしに寄り添いながら少しずつ整えていくことにこそ意味があります。
私たちは、このように住みながら段階的に手を加えていく考え方を「アフターリフォーム」と呼び、推奨しています。自ら手を動かすことで、自分の暮らしを自分でつくっているという実感が得られるはずです。
2. DIYでできる?プロに任せる?判断基準は?
DIYへの挑戦もおすすめですが、全てをDIYでやることをおすすめするわけではなく、法規制や安全性の観点からプロに任せるべきリフォームもあります。
資格が必要な工事
ガス工事や電気工事は安全性に直結するため、法律で有資格者による施工が義務付けられています。たとえばガス工事では、新たな配管の設置や移設はもちろん、キッチンリフォームでビルトインタイプのガスコンロをガス栓につなぐ作業も資格が必要です。一方、卓上型のガスコンロであれば資格を持たない人でも設置できます。
電気工事についても同様で、シーリングライトの取り付けやペンダントライトの交換といった簡易な作業はDIYできますが、照明器具を直接配線に結線する場合には資格が必要です。さらに、コンセントの位置を変える工事やスイッチそのものを交換する場合も有資格者でなければ行えません。一方、スイッチのプレート交換のように配線に触れない作業であればDIYでも行えます。
高リスクな配管工事
配管工事は法律上資格が不要とされていますが、高いリスクを伴う作業です。既存の配管の状態を適切に判断し、確実に取り付けなければ漏水や破損につながる可能性があるため、専門家に任せたほうが安心でしょう。たとえば古い鉄管に新しい水栓器具を取り付けると、水圧や結束の不具合から鉄管が破裂したり、水圧が極端に低下したりする可能性も。
特に集合住宅では、漏水が階下の住戸にも被害を及ぼすおそれがあり、修繕費や損害賠償に発展するリスクもあります。そのため、配管に関わる工事はプロに依頼するのが賢明です。
間取りの変更
間取りを変更するために壁を取り払うことは、物理的にはDIYでも可能です。しかし、部屋の区画が変わると、建築確認申請が必要になる場合があります。また、建物の基本構造部分にあたる主要な壁や柱を撤去してしまうと、耐震性が低下するリスクもあるため注意しましょう。
<キーワード解説・用語集>
基本構造部分「どの壁を抜いてよいか」をプロに見極めてもらったうえでDIYする方法も考えられますが、これは図面を見ただけで簡単に判断できるものではありません。特に一戸建ては1棟ごとの個別性が強いため、プロに実際に建物を見てもらう必要があります。
法規制に関わる改修
見落とされがちなのが、建築基準法や消防法といった法規制に関わる改修です。すべての住宅はこうした法律を遵守しなければならず、小屋やカーポートの新設、あるいは増築などを行うことで、建物の面積や高さが規制に抵触する可能性があります。
特にDIYで多いのが、ベランダやバルコニーの上に屋根を取り付ける改修です。一見すると小規模な工事に見えますが、場合によっては屋根を付けることでその部分も床面積に算入されるようになり、定められた建ぺい率や容積率を超過することもあります。
2025年4月からは改築に関するルールが強化され、基本構造部分のうち1種類以上で過半を超える改修を行う場合には、建築確認申請が必要となりました。しかし、専門家でない人が建築確認申請を通すのは現実的ではありません。そのため、法規制にかかわる改修についても、プロに任せるのが賢明と言えるでしょう。
3. どんなDIYができる? 中古住宅におすすめのDIY事例
ガスや電気、配管といった安全性や法規制に関わる工事はプロに任せるべきですが、すべてのリフォームが専門家の領域というわけではありません。壁の塗装や棚の取り付けなどは、初心者でも挑戦しやすいDIYです。
参考に、toolboxのウェブサイトに掲載しているDIY実例を紹介していきます。
壁の塗装
DIYで最も取り組みやすいのが、壁の塗装です。最近では既存のクロスの上からそのまま塗れるペンキも多く販売されているので、手垢や色あせが気になる場合には気軽にチャレンジできます。壁は面積が大きいため、空間全体の雰囲気を一新しやすい方法です。また、ドアや引き戸などの建具も塗装でイメージチェンジができます。
図4:築古戸建てのトイレの壁・天井を塗装


| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所要時間 | 14時間 |
| かかった費用 | 17,770円(税込、施工時) |
| 使用材料 | ベンジャミンムーアペイント |
| 主な道具 | ハケ、ローラー、バケット、マスキングテープ、マスカー、手袋 など |
タイル張り
タイル張りや板材・パネル材の壁面への取り付けも、人気の高いDIYです。たとえば、配管工事や設備機器の取り付けなど、専門性が必要な部分はプロに任せ、その後の仕上げとしてタイルを自分で張るといった方法であれば取り入れやすいでしょう。
ただし、プロによる工事と同時進行でDIYを行うのは効率面や安全面から適切ではありません。工事の引渡し後であれば自由にDIYに取り組むことができるため、カスタマイズしやすく、自分らしい空間づくりを楽しめます。
図5:洗面所の壁をタイル貼りに


| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所要時間 | 1日 |
| かかった費用 | 2,190円(税込、施工時) |
| 使用材料 | 水彩タイル |
| 主な道具 | マスキングテープ、タイル用ボンド、目地剤、ゴムべら、タイル用スポンジ など |
床材の施工
今の床仕上げが好みではない、表面が痛んできたという場合には、床仕上げの張り替えがおすすめです。今ある床の上に重ね張りできるタイプの床材であれば、比較的手軽にDIYできます。
図6:古い和室の畳の上からフローリングを敷く


| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所要時間 | 8時間 |
| かかった費用 | 89,964円(税込、施工時) |
| 使用材料 | イージーロックフローリング |
| 主な道具 | 丸ノコ、げんのう など |
また、畳を剥がして新たな床材を張るリフォームも、比較的DIYでやりやすいです。既存のフローリングを剥がして新しい床仕上げを貼りたい場合は、フローリングはボンドとビスで下地に固定されているため、撤去するのは大変です。
既存の床材を撤去して張り替える場合には、下地の状態を確認しなければならないほか、取り外した床材の処分方法も問題となるため、専門的な知識や手間が求められます。DIYで行う場合は事前によく手順を調べたり、張り替え面積が広い場合はプロに任せるほうが安心でしょう。
図7:古い和室の畳を撤去してフローリング敷きに


| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所要時間 | 16時間 |
| かかった費用 | 116,775円(税込、施工時) |
| 使用材料 | スクールパーケット |
| 主な道具 | ドライバー、丸ノコ、げんのう など |
棚の取り付け
棚の取り付けも、比較的取り組みやすいDIYの一つです。棚が欲しい位置や必要な収納容量は、実際に住みながら暮らしの中で見えてくることも多く、そのタイミングで自ら設置できることはDIYならではの利点と言えるでしょう。
ただし、どこにでも棚を取り付けられるわけではなく、棚を取り付けたい場合は壁の裏に下地がある箇所に金具を取り付ける必要があります。市販の下地チェッカーなどを使って、下地がある箇所を調べて行いましょう。重いものを置く場合は、棚が落下したり壁が剥がれたりといったことのないよう、下地の補強や取り付け方法をしっかり検討しましょう。
図8:机の上に可動収納棚を取り付け


| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所要時間 | 5時間 |
| かかった費用 | 41,052円(施工時) |
| 使用材料 | ウォールディスプレイパーツ |
| 主な道具 | インパクトドライバー、水平器、差し金、コンベックス など |
家具の造作
家具の造作も、たとえばテーブルの天板と脚を組み合わせる程度であれば、工具さえ使えれば十分DIY可能。キッチンカウンターのような造作家具も、火気から離れた位置で使うものであれば自作できます。自分の暮らし方や間取りに合わせたサイズやデザインで仕上げられるため、既製品では得られない使い勝手や愛着を感じられる点も魅力です。
図9:オリジナルPCデスクを造作


| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所要時間 | 8時間(乾燥時間を入れると2日ほど) |
| かかった費用 | 93,590円(施工時) |
| 使用材料 | ヒノキ卓、市販のヒノキ角材 など |
| 主な道具 | サンディングペーパーホルダー、コンベックス、差し金、のこぎり など |
4. DIYするときの心構え
プロに依頼するリフォームとは異なり、DIYは自由度が高い分、判断力や工夫、そして「寛容さ」が求められます。
コストだけを重視しない
DIYを考えるとき、多くの人がまず「コストダウン」を意識すると思います。確かにプロに依頼するより安く仕上がる可能性はありますが、その分、時間や労力はかかります。たとえば「壁紙を自分で張ろう」「床を自分で張ろう」と意気込んでも、実際に作業してみると予想以上に大変で、途中で断念し、結局プロに依頼し直すことに……といった可能性も。トータルコストがかえって高くなってしまう場合もあります。「コストダウン」を最優先にDIYに取り組み、満足できる結果になっている人はあまり見たことがありません。
DIYは「自分の住まいを自分でつくっていきたい」「家族との思い出づくりとしてやってみたい」「自分のペースで進めたい」「よりよくしたい、かっこよくしたい」「機能性のリフォームだけではつまらない」といった、コスト以外の目的があり、機能性だけでなく見た目や雰囲気をよくしていく過程を楽しめる人、あるいはこうした思いがモチベーションになる人にこそ向いていると思います。
完璧を求めない
DIYはやってみると達成感が大きい一方で、やはりプロの仕上がりと比べるとどうしても細かなアラが出てしまいます。そのため、DIYを楽しむには「完璧を求めすぎない」という寛容さを持つことがとても大切です。DIYに取り組むうちに、多少のズレやムラが気にならなくなり、むしろ自分で手をかけた味わいとして受け止められるようになることもあるでしょう。
また、DIYに挑戦することで「やはりプロに任せるべきだ」と気づくきっかけにもなります。最初は大がかりな改修ではなく、簡単な作業から小さく始めるのがおすすめです。そうすることで、自分がDIYにどの程度向いているのかという適性も見えてきます。
自分で責任を持って実施する
建物の状態や条件は1軒1軒異なるため、マニュアル通りに進めれば誰でも同じようにできるというものではありません。その場で判断しながら工夫して進めていく必要があります。
最近では、個人のブログやYouTube、SNSなどでDIYの方法を発信する人が増えています。こうした情報を参考にしつつも、一つの情報を鵜呑みにするのではなく、考え方やアイデアの一つとして受け取るべきでしょう。最終的に判断するのは自分自身に他なりませんし、結果に対して責任を負うのも自分です。
たとえば棚を取り付ける場合、載せるものの重量によっては壁の補強が必要になることもあります。こうしたことを考え、自分で調べて判断することもDIYには含まれます。
5. まずは「自分でやれること」を見つけ、愛着を感じる住まいづくりにトライしてみよう
多くの人にDIYにチャレンジしてもらいたいですが、誰にでもできるわけではなく、モチベーションや学ぶ姿勢によって成果は大きく変わります。
たとえばtoolboxのショールームでは商品の取り入れ方について相談ができますし、ホームセンターの中には工具や作業場を提供している店舗もあります。こうした環境を活用することで、より安心してDIYに挑戦することができるのではないでしょうか。