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選考委員長が解説!受賞作品紹介〜中古リノベ最前線!リノベーション・オブ・ザ・イヤー受賞作品から学ぶ【中編】

島原 万丈

2024年12月、リノベーション・オブ・ザ・イヤー2024の受賞作品が決定しました。リノベーション・オブ・ザ・イヤーとは、全国のリノベーション会社が手がけたリノベーション作品からその年を代表するものを選び、表彰するアワードです。

その選考委員長を務めるLIFULLHOME’S総研所長の島原 万丈(しまはら まんじょう)が、前編・中編・後編の3編に分けてリノベーションの最新トレンドを解説。すでに公開している前編では、リノベーションにおけるトレンドの変遷や、リノベーション・オブ・ザ・イヤー2024受賞作品から得られるアイデア、トレンドなどについて紹介しました。

中編の本記事では、トレンドとなるキーワードごとにリノベーション・オブ・ザ・イヤー2024や過去の受賞作品を紹介します。

1. 視点1:循環〜サーキュラー・エコノミー

「省エネ」は、今やリノベーションの必須科目のような位置づけになっていますが、近年は「再利用」や「リメイク」というサーキュラー・エコノミー(循環経済)的な、これまでの省エネ改修の一歩先を行く発想のリノベーションが見られ始めています。

事例1.「ReMAKE(リメイク)」(2024総合グランプリ)

総合グランプリに輝いたのは「既存の内装を活かす」ことをコンセプトとした作品です。できるだけ壊さない、そして解体したものはできる限り再利用、あるいはリメイクして再生する「循環」の視点を重視したリノベーションです。

一見するとまだ工事中のようにも見えますが、このラフさもユニーク。リノベーション・オブ・ザ・イヤーの10年余りの歴史の中で、省エネ性能が大きく進化してきましたが、そこに新たなスタンダードを打ち立てる予感を感じさせてくれた事例と言えるでしょう。

図1:2024年 総合グランプリ受賞作品

解体ではなく部分的に手を加えて空間を再構成することに挑戦した実験的プロジェクト(出典:リノベーション・オブ・ザ・イヤー2024

事例2.「サスティナブルにスマートハウス」(2020)

サーキュラー・エコノミーの考え方は2024年に初めて登場したものではなく、以前から見られていました。2020年のこの作品は、地産地消の素材を採用し、既存建具を再利用するなど、サスティナブルな視点で改修されました。

一方で、タイトルにもあるように、エアコンや照明、給湯機などは遠隔で操作できるなど、IoTに対応したスマートハウスでもあります。サーキュラー・エコノミーという視点に振り切った事例ではありませんが、この頃から片鱗が見られ始めていたということです。

図2:2020年 500万未満部門最優秀賞作品

間伐材や地産地消の素材の採用、既存建具の再利用、廃材の少ないリノベーション、コンクリート素地の質感などもあらためてサスティナブルかどうか、という視点で考察したもの(出典:リノベーション・オブ・ザ・イヤー2020
視点1:循環〜サーキュラー・エコノミー
  • サーキュラー・エコノミーとは、資源を循環させる経済活動を指す
  • 「省エネ改修の一歩先」を行く取り組みとして新たなスタンダードを予感させる

2. 視点2:「住み継ぐ」一戸建てのリノベーション事例

人口が減り、少子高齢化が進んでいることで、空き家は爆発的に増加しています。特に地方には、贅沢な広さの敷地や歴史的価値のある家屋が数多く存在しています。こうした中古住宅を住み継いでいけること、すなわち住宅ストックを循環させることも、リノベーションの価値の一つです。

事例3.「サタンティ〜他人間相続〜」(2024)

当初、売主さんは家を解体して土地として売るつもりだったと言います。しかし、買主さんは「家の空気感や記憶を受け継ぎたい」と、建物を解体せずに売ってもらえるよう要望していました。実は、売主さんが解体を希望していたのは内外装とも劣化が激しかったから。そこで仲介会社が検査(インスペクション)を実施し、明らかになった劣化状況をお互いが受け入れることを合意できたことで取引が成立したというわけです。最終的には売主さんもリノベーションの完成を楽しみにされていたのですが、完成を見ることなく逝去されたそうです。まさに、他人間で相続されたような事例と言えるでしょう。

コストダウンだけではなく、買主さんの強い希望から、既存のものをできる限り活かす改修をしています。明確に「循環」を意識したというより、単にこの家が好きという気持ちが大きかったのだと思います。家というのは、最初は誰かのために建てられるものですが、その役割が終わったときに「建てた人の想い、住んだ人の想いごと引き継いだ」というストーリーを評価しました。

リノベーション・オブ・ザ・イヤーは、単なる建築アワードではありません。主催する(一社)リノベーション協議会は、もともと「リノベーション住宅推進協議会」という名称だった通り、リノベーションだけではなく「中古住宅の流通」を推進することを目的としています。リノベーション・オブ・ザ・イヤーも同様に、建築行為だけでなく、こうした背景や想いも評価の対象としています。

図3:2024年 1,500万以上部門最優秀作品

建物が古いことを案じて解体を売却の条件としていた売主を説得し、買主がリノベーション(出典:リノベーション・オブ・ザ・イヤー2024

事例4.「総二階だった家(平屋)」(2022総合グランプリ)

空き家になっていた総二階の家を平屋にリノベーションした事例です。当初、施主は築47年の実家である建物を解体して新築することも検討していたようです。検査(インスペクション)と耐震診断を実施したことで、改修すべき箇所が明確になり、建築会社から新築とリノベーションの費用などを比較しやすいようそれぞれのプランを提示してもらった結果、リノベーションを選択しました。

特に古い一戸建ての場合、「内装だけ」「設備だけ」の改修では済まないことも多いため、検査(インスペクション)を実施する意義が大きいと言えるでしょう。この事例では耐震改修や断熱改修の工事を行い、耐震等級1相当とZEHを上回る断熱性能を達成。これにより長期優良住宅の認定も受けました。

図4:2022年 総合グランプリ受賞作品

減築と軽量化で耐震性を確保し、断熱性能は当地でのZEH基準を上回る水準を達成(出典:リノベーション・オブ・ザ・イヤー2022

事例5.「地域資産を、住み継ぐ」(2024)

明治期に建築された文化財建築物を改修した事例です。リノベーション・オブ・ザ・イヤーには古い物件も多くノミネートしていますが、その中でも群を抜いて古い家屋だと言えるでしょう。

その価値にリスペクトを示しつつも、限界耐力計算を実施してしっかり耐震性を高め、できる限りの断熱・気密工事を実施。改修工事は、地元の人向けに一部公開されたそうです。

こうした歴史的建物は、取り壊してしまったら二度と建築できません。当然、建築時の図面はなく、リノベーションにおいてもできることには限界があります。それでも、耐震工事や断熱・気密工事を行い、経済性と快適性を調和させたうえで、こうした歴史的価値のある古い家屋を残して住み継いでいくことができます。

そして地域に貴重な資産を残せます。京都の町屋など、地域の歴史的建造物がどんどん取り壊されている今、保存と活用が両立できることを示した非常に意義のある事例です。

図5:2024年 ローカルヘリテージ・リノベーション賞作品

施主は、故郷の大好きな町並みが少しずつ失われていくことに心を砕いており、Uターンをきっかけに地域のシンボルである文化遺産を後世に繋ぎたいと、この建物の取得・改修を決意(出典:リノベーション・オブ・ザ・イヤー2024

事例6.「納屋に住む。」(2024)

子世帯がUターンして暮らすために、実家の敷地内にある納屋を住宅に改修した事例です。もともと住宅としては建てられていなかった納屋を居住空間として生まれ変わらせ、なおかつ(一社)リノベーション協議会が定める適合リノベーションの品質基準に則り、「R5」を取得しました。R5とは、検査・工事・報告・保証・住宅履歴蓄積といった一連のフローをふまえた”優良な”一戸建てリノベーションであること、またその住宅を指します。

母屋と納屋のような離れがある敷地は地方に多く見られますが、納屋を改修して住居とすることができれば、2世帯が程よい距離感を保ったままの同居も実現しやすくなるでしょう。

図6:2024年 PLAYERS CHOICE受賞作品

改修したのは、養蚕業に使われていた築63年の納屋。これをUターンしてくる若夫婦の住処にできないか、という相談から始まった(出典:リノベーション・オブ・ザ・イヤー2024
視点2:「住み継ぐ」一戸建てのリノベーション事例
  • 一戸建てのリノベーションは「住み継ぐ」ことが大きなテーマ
  • 住み継ぐのは必ずしも親子ではなく、他人間の売買や地域資産の再生によって住み継ぐこともできる

3. 視点3:空間を最大限活用する〜マンションのリノベーション事例

不動産価格がどんどん上がり、ゆとりのある広い住まいを取得することが難しくなっている今、「限られた空間をどう活用するか」はマンションリノベーションのテーマの一つになっています。

事例7.「感性を解き放つ、45°の秩序」(2024)

44㎡の1LDKのマンションをワンルームに改修し、斜め45°で空間を仕切った事例です。敷地に対して建物の配置をずらして空間を生むというのは、実は一戸建てでは少なからず見られる手法です。それをワンルームマンションのプランに応用したことが非常に面白いと思います。

既にリノベーション済みのマンションであったため、Beforeの状態でも十分快適に暮らせたでしょうが、改修後は室内のあらゆる場所からすべてのスペースを見渡すことができる一方で、空間としては仕切られています。施主はイラストレーターということで、感性を刺激する空間を求めたのでしょう。テレワークをする人や自宅で趣味の時間を楽しみたいという人にもマッチする発想だと思います。

図7:2024年 1,500万未満部門最優秀賞作品

大胆に斜め45°の線で空間を再構成することで、施主が求めた感性を刺激する空間と広さ、そして閉ざされた暗がりの書斎を実現(出典:リノベーション・オブ・ザ・イヤー2024

事例8.「0LDKの我が家を、大切に住み続けたくて」(2024)

総面積57㎡のマンションに家族3人が暮らすため、個室のない「0LDK」に改修して12年が経過しました。成長した子どものパーソナルな空間を作るため、ベッドスペースの上にロフトを設置。加えて、両親の在宅勤務が増えたため、WICをワークスペースに改修した事例です。

図8:2024年 空間アップデート・リノベーション賞受賞作品

水周り以外に扉も壁もないワンルームの中で唯一、ガラスのパーティションでゾーニングされていたリビングの一角に、ロフトを新設(出典:リノベーション・オブ・ザ・イヤー2024

事例9.「7帖に作る3つの秘密基地」(2024)

マンションの6帖1室という限られた空間で、3人の子どもそれぞれのパーソナルスペースを確保したいという要望がありました。そこで、面積の制約を克服するため、高さ方向のスペース活用を検討。その結果、クローゼットを解体して7帖を確保し、二段ベッドとロフトベッドをメインに据えたリノベーションを実施したことで、子どもの3つの秘密基地が実現した事例です。

図9:2024年 わくわく空間創造リノベーション賞受賞作品

マンションの6帖1室をリノベーションし、3人の子どものパーソナルスペースを実現(出典:リノベーション・オブ・ザ・イヤー2024

事例8と事例9に共通するのは、マンションの1住戸の空間を「立体」でとらえ「高さ」を使って追加の床を創り出す発想です。子ども部屋だけでなく、収納の容量を増やすためにも使える発想でしょう。

視点3:空間を最大限活用する〜マンションのリノベーション事例
  • マンションが高騰し、狭小化していることもあって、近年は空間を最大限活用するリノベーションが目立つ
  • ドアや壁ではなく「角度」で空間を仕切ったり、高さを活用して追加の床を創出したりすることが可能

4. リノベーションのトレンド事例を参考にしながら、実現したい住まいのあり方を考えてみよう

リノベーション・オブ・ザ・イヤーの受賞作品は個性的なものもありますが、その個性の中に、これからの時代のトレンドを予感させるエッセンスがあります。今回紹介した省エネ改修の一歩先を行く「循環」という視点や、必ずしも親子間だけでない「住み継ぐ」という想い、これまでの常識にとらわれないユニークな空間活用術は、多くの人の参考になるはずです。

島原 万丈 (しまはら まんじょう)
(株)LIFULL LIFULL HOME’S総研 所長。1989年(株)リクルート入社、2005年よりリクルート住宅総研。2013年3月リクルートを退社、同年7月、(株)LIFULL(旧株式会社ネクスト)に設置された社内シンクタンクLIFULL HOME’S総研所長に就任し、独自の調査研究レポートを元に「住」領域の情報発信および提言活動に従事。(一社)リノベーション協議会設立発起人・エグゼクティブアドバイザー、内閣府地方創生推進アドバイザーほか、国土交通省、地方自治体、業界団体のアドバイザー・委員を歴任。