買うコツ

50代からの住み替え。ライフプランから考える、物件の選び方や資金計画

橋本 秋人

家族構成の変化や老後生活に対応するため、住み替えを検討する50代・60代の人は少なくありません。一般的に、50代・60代の人は若年層と比べて資金力があり、年齢とともに自分たちの好みや希望も明確になってきていることが多いため、満足度の高い住み替えがしやすいと言えるでしょう。その一方で、老後も視野に入る年代になってからの転居やローンの借り入れに、不安を感じる人も一定数います。

本記事では、50代からの住み替えにおける物件選びのポイントや資金計画の注意点について、ファイナンシャルプランナーの橋本秋人(はしもと あきと)が解説します。

1. 50代から住み替えを考える人の背景や目的は?

50歳以上の方が住み替える目的や状況はさまざまですが、主に次の3つに大別されます。

子どもの独立

まずは「子どもの独立」が住み替えのきっかけとなるケースです。子育てが終わると、「これまで家族で住んでいた家が広すぎる」「もっと狭くてもいいから利便性のいい場所に住みたい」などのニーズが出てきます。

終活の一環として

70歳以上の人に多いのが、終活の一環としての住み替えです。自分の身体や相続のことを考え、自宅を売却あるいは賃貸し、シニア向けの住宅やサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)へ住み替えるというケースも少なからず見られます。住まいの「出口戦略」とも言えるかもしれません。

結婚、再婚

最近は、50歳以上で結婚・再婚する人も少なくありません。新たに世帯を持つという理由で住み替えるということです。私の元にも、結婚を機に「住まいとお金の相談をしたい」と訪れる50歳以上の人がいます。

50代から住み替えを考える人の背景や目的
  • ・子どもの独立
  • ・終活の一環として
  • ・結婚、再婚

2. 50代からの住み替え。物件選びの注意点は?

50歳以上となると、皆さんが多かれ少なかれ「老後」を意識して住み替えを検討しています。老後を見据えた住み替えにおける注意点は、次の通りです。

資金計画を立てる

50歳以上の住み替えで重視すべきポイントは、なんと言っても資金計画です。住宅ローン返済期間の間に年金生活になることも考えていかなければならない年代ですから、老後資金を確保できる資金計画を立てる必要があるでしょう。無理に高額な物件を購入してしまうと、老後の生活レベルが下がってしまったり、ローンが返済できなくなってしまったりするおそれがあります。

ひと昔前に「老後資金2,000万円問題」が話題になりましたが、この根拠となったのは夫が働いてきて妻が専業主婦というケースを想定した2017年の総務省統計局「家計調査報告」のデータです。最新の2022年のデータでは、不足する老後資金は800万円ほどという試算となっています。この不足額というのは、あくまでも平均値です。もちろん、世帯によっては2,000万円以上が必要になる場合もあるでしょう。一方で、ほとんど年金でまかなえてしまう世帯もあるはずです。平均値で一喜一憂するのではなく、それぞれの家族構成や働き方、ライフプランの考え方などによって、現状の確認と将来の資金計画を立てることが大切です。資金計画の考え方については、後で詳しく解説します。

バリアフリー、ユニバーサルデザインの物件を選ぶ

50歳以上は、だんだんと身体が弱っていく年代でもあります。今は段差や階段などが苦に感じなかったとしても、将来を考えてバリアフリーやユニバーサルデザインの物件を選ぶのがおすすめです。中古住宅を購入し、リノベーションでバリアフリーにするのもいいでしょう。

購入する家の「出口戦略」まで考える

50歳以上の人は「住んだあとのこと」も考えておきたいタイミングです。空き家問題は年々、深刻化しています。「自分たちが住みやすい物件」であることも大事ですが、同時に相続や売却、活用がしやすい物件かどうかという視点も持っておくといいでしょう。そういった意味では、一般的に、土地価格が上昇しない限り築後5年以内に急激に資産価値が下がる新築住宅と比較して、中古住宅は購入時から売却時までの資産価値の目減りが緩やかなことが多いので、50代からの住み替え先として合理的な選択となるのではないでしょうか。

50代から住み替えにおける物件選びの注意点
  • ・資金計画を立てる
  • ・バリアフリー、ユニバーサルデザインの物件を選ぶ
  • ・購入する家の「出口戦略」まで考える

3. 物件選びに役立つ!知っておきたいマンション・一戸建ての特性と注意点

住み替え先を「マンション」にするか「一戸建て」にするかも悩むポイントなのではないでしょうか?基本的には利便性やメンテナンスなど、実現したい生活に合わせて決めることになると思いますが、それぞれの物件種別の特性や注意点についてはしっかり認識しておきましょう。

マンションを検討する際に知っておくべきこと

マンションは、一戸建てに比べると流通性が高く、出口戦略が立てやすい傾向にあります。しかし、近年ではマンションの老朽化や所有者の高齢化に伴い、管理に支障をきたしていたり、大規模修繕費が足りなくなっていたりするマンションが増加しています。マンションを選ぶうえでは、立地や広さ、間取り、築年数などの条件に加え、管理状態や財政状況も確認することが大切です。

また、マンションは、住宅ローンの返済が終わっても管理費や修繕積立金、駐車場代の支払いは続きます。また、共用部分は毎月積立てる修繕積立金からメンテナンスをしますが、専有部分は所有者が自らメンテナンスをする必要があるため、その分を資金計画に折り込んでおきましょう。

一戸建てを検討する際に知っておくべきこと

一戸建ては、マンションに比べて質や状態のバラつきが大きく、また、分かりにくい傾向にあります。

  • 構造の劣化や欠陥はないか
  • 雨漏りや水漏れ、配管の劣化はないか
  • バリアフリー住宅になっているか
  • バリアフリー住宅へのリノベーションは可能か
  • 入居時にどれくらいのリノベーション費用がかかるのか
  • 修繕費はいつ・いくらかかるのか

特に、構造や目に見えない設備に心配がある場合は、インスペクション(専門家による購入前の建物検査)の実施やかし(瑕疵)保険に加入する重要性は高いと考えます。先日、コンサルティングをした中古住宅の買主さんは、私が紹介することなく自ら「インスペクションを実施したい」「かし(瑕疵)保険に加入したい」と希望されました。最近では、事前にしっかりとこのような制度を調べている人が増えている印象です。

ただ、これまで「『古い・汚い・わからない』が中古戸建てのデメリット」などと言われていましたが、最近では2000年基準(木造住宅の最新の耐震基準)で建てられた物件も多く出回っており、中古住宅の質が向上しています。長期優良住宅やZEH(ゼッチ、ネット・ゼロ・エネルギーハウス、生み出すエネルギーが消費するエネルギーを上回る家)など、性能が高い中古住宅も少なからず見られるようになりました。光熱費や耐久性は大きく異なるため、住宅性能はライフサイクルコストに影響を与える要素の一つです。

近年、リノベーションの技術も進歩し、古い建物でも省エネルギー性能や耐震性能を高めることも可能となりました。中古戸建ての購入検討時から、合わせて断熱や耐震性能を向上するリノベーションを想定し、検討しておくと安心です。

また、一戸建ては、マンションのように修繕積立金を積み立てる仕組みがないため、主体的に入居時のリフォーム費用と将来的に必要になるメンテナンス費用を見積もったうえで資金計画を立てるようにしましょう。

マンション・一戸建ての特性と注意点
  • マンション ・流通性が高いため出口戦略が取りやすい
  • ・マンションの管理状態・財政状況も確認すべき
  • ・一戸建てと異なり、管理費・修繕積立金・駐車場代は継続的にかかってくる
  • ・専有部のメンテナンス費用も見込んでおく
  • 一戸建て ・マンションと比べて質にバラつきがあるため、購入前の検査・かし(瑕疵)保険への加入も検討したい
  • ・住宅性能はライフサイクルコストに直結するため、質のよいものを選ぶ
  • ・管理費・修繕積立金がない分、独自に修繕・メンテナンス計画を立てる

4. 50代からの住み替えで慎重に考えるべき「資金計画」

先の通り、50代以上の住み替えで最も重視すべきポイントは資金計画です。収入の減少が見込まれる年代でもあるため、老後の生活にしわ寄せがいかないように資金計画を立てましょう。

住宅ローンは借りても大丈夫!?

多くの住宅ローンは、80歳までに完済しなければなりません。50代だと、35年ローンは組めないことがほとんどでしょう。また、80歳まで組めるからといって、50歳の人が30年ローンを組んでいいとも言い切れません。80歳までローンを組んだとしても、在職中に返済を終えられる資金計画を立てることをおすすめします。

ただ、私は「できることなら退職金でローンを返すことはやめましょう」と伝えています。退職金は近年、減少傾向にあるとは言え、老後のための大事な資金となるからです。日常の収支のなかでローンを返済し、なおかつ、老後資金を確保したうえで在職中に繰り上げ返済できる金額であれば、50歳以上であっても住宅ローンを組んでも問題ないでしょう。

大事なのはキャッシュ(現金)と住宅ローンのバランス

50歳以上となると、それなりのキャッシュ(現金)を持っている人も少なくありません。しかし、老後の生活を考えれば、ある程度、手元に残しておくことも大切です。

住宅購入において、どれくらいの自己資金を入れて、どれくらいの住宅ローンを組むかを考えるにあたっては「キャッシュフロー表」を作ることをおすすめしています。キャッシュフロー表とは、これからの人生における収入と支出、その差額、金融資産を一覧にしたものです。キャッシュフロー表を作ることで、お金の流れや貯蓄を“見える化”します。そこから、どれくらいの自己資金を入れられるのか、どれくらいの住宅ローンを組めるか、そもそも住み替えが可能なのかといったことが判断できるでしょう。

「ライフプラン」を設計することも大切

キャッシュフロー表を作るにあたっては、いつまで働くのか、セカンドキャリアを築くのか、どんな老後を送りたいのか……といったライフプランを立てる必要があります。とは言え、定年後のことまで考えている人は多くない印象です。ライフプランが明確になっていない場合は、まず定年まで会社にいて、その後は働かないという想定でキャッシュフロー表を作ってみるといいかもしれません。住み替えを考えている場合でも、キャッシュフロー表を作ってみた結果、なんらかの問題がある場合は、購入予算を下げたり、ライフプランを練り直したりする必要があるでしょう。

50代からの「資金計画」
  • ・返済できる見込みがあるのであれば住宅ローンは借りても大丈夫
  • ・大事なのはキャッシュ(現金)と住宅ローンのバランス
  • ・「ライフプラン」を設計することも大切

5. 50代からの住み替えにおける住宅ローン選び

住宅ローン選びは、資金計画と密接に関わってきます。50歳以上の人も住宅ローンを組むことは可能ですが、年金生活も見据え「無理なく早期に返済できるか」という視点で選ばなければなりません。

50代は住宅ローン審査が通りにくい?

在職中であれば、30代、40代と比べて審査に通りにくいということはありません。ただ、やはり、年金生活の人は融資が受けにくくなります。その場合はフラット35など、審査が寛容なローンを検討する必要性もでてくるでしょう。

いずれにしても、借入限度額や融資の可否以上に大切なのは、返済可能であるかどうかです。審査に通れば安心ということではありません。50歳以上で住宅ローンを組む際には「老後資金を圧迫することなく、無理なく返済し、早期に完済できるか」という視点を持つことが大切です。

金利タイプはどう選ぶ?

欧米諸国の住宅ローン金利が急上昇するなか、日本はいまだ低金利を維持しています。特に、変動金利は史上最低水準にある状況です。固定金利も各国や過去の日本と比べれば著しく低い水準ですが、目先のことを考えれば変動金利のほうが負担は少ないと言えるでしょう。ただし、変動金利には当然ながら金利上昇リスクがあります。

住宅金融支援機構の調査によれば、住宅ローンの平均借入期間は26〜27年です。しかし、平均完済期間は16年ほど。この中には買い替えに伴う不動産の売却によって完済したケースも含まれているため、すべてが繰り上げ返済したということではありませんが、買い替え比率は13%程度に留まります。つまり、8割以上の人は、不動産を売らずに借入期間を前倒して繰り上げ返済しているということです。

繰り上げ返済ができるだけの余力があるかどうかは、金利タイプの選択にも大きく関わってきます。繰り上げ返済ができれば、金利上昇局面でも月々の返済額の上昇は抑えられるため、変動金利を選択しても問題ないと思います。しかし、金利上昇に対応できないのであれば、固定金利で借り入れておいたほうが安心できるでしょう。

金利タイプの選び方は考え方や性格にもよります。安定を求めるのか、リスクを許容できるのか。資金面とともに、こういった気持ちや意向も大切にすることで、無理なく、ストレスなく返済していけるのではないでしょうか。

「リバースモーゲージ型住宅ローン」も一つの選択肢

60歳以上の方は「リバースモーゲージ型住宅ローン」も選択肢の一つになってくると思います。リバースモーゲージは、自宅を担保として融資を受ける点は一般的な住宅ローンと同様です。しかし、返済方法は大きく異なり、基本的に毎月の返済は利息のみで、債務者が亡くなったときに自宅を売却してローンを一括返済します。自宅の終活も兼ねることができ、年金収入でも審査が通りやすいというのが特徴です。

50代からの住み替えにおける住宅ローン選び
  • ・50代は住宅ローン審査が通りにくいということはない
  • ・金利上昇局面に対応できるだけの資金力があり、リスクが許容できれば変動金利は有利
  • ・金利上昇時に繰り上げ返済できるだけの余力が見込めそうになく、安定を求めるのであれば固定金利が向いている
  • ・60代・年金生活の人はリバースモーゲージも選択肢の一つ

6. 50代からの住み替えのポイント

50歳以上の人にとって、住み替え先は「終の住処(ついのすみか)」となる可能性も高いと考えられます。せっかく住み替えるなら、これまでの人生のなかで培ってきた理想や好みを実現し、失敗や後悔は避けたいものです。最後に、50代からの住み替えのポイントを4つ紹介します。

購入と売却、どちらを先に進めるべき?

50歳以上となると、住み替えに今の住まいの売却を伴うケースも少なくありません。住まいの購入と売却をほぼ同時にするとなると、難しいのが売買のタイミングです。手間がかかることをいとわないのであれば、今の住まいの売却を先行したほうが経済的な効果は高いと言えます。先に新居を購入すると、売却を焦り、安い金額で手放さざるを得ない状況になってしまうことも想定されるからです。ただし、先に今の住まいを売るとなると、新居を購入するまでの間に仮住まいしなければならない可能性もあります。

一方で、今の住まいのローンは完済し終えている、あるいは住宅ローンの借入金額に対して自己資金の比率が高く、手持ちのキャッシュ(現金)に余裕があれば、新居の購入を先行し、新居に移ってゆっくりとこれまで住んでいた家を売却するのもいいと思います。

売却する不動産を「きれい」な状態にしておく

住まいの売却を伴う住み替えでは、今住んでいる不動産を“きれい”な状態にしておくことも大切だと思います。“きれい”というのは、たとえば土地の境界をはっきりさせておく、名義を自分一人の単独名義にしておくといったことなどです。特に、親から引き継いだ家や長いこと住んでいた家は、境界が確定していなかったり、登記名義人が先代や先々代のままになっていたり、共有名義のままになっていることも少なくありません。このような状況のままでは、基本的に不動産は売却できません。

境界確定や名義変更には、時間やお金もかかります。スムーズに住み替えるためには、不動産の状態も事前に把握し、準備しておくことが求められます。

幅広い選択肢を持つ

働き方・暮らし方が多様化している今、二拠点居住や地方移住する人も増えています。晩年に、生まれ育った地元に戻りたいという人も少なくありません。また、子どもとの近居や同居も選択肢の一つに入ってくるでしょう。

このように、住み替え先の選択肢はさまざまです。人によっては、駅から近くて生活利便施設が充実している場所が住み替え先として適しているわけではありません。物件選びに際しても、リノベーションを組み合わせることで選択肢は広がります。これからの人生をどう過ごしたいかを考えたうえで幅広い選択肢を持つことも、満足のいく住み替えをするための秘訣の一つになってくるでしょう。

「優先順位」をつける

誰もが、住宅に対して夢や理想を持っていることと思いますが、性能、広さ、立地などすべてに100%満足することは難しいものです。予算も限られるなか、住まいに求めるものの「優先順位」をつけることが大切になってくると思います。これはどの世代にも言えることですが、今後の住み替えの回数が少なくなる50歳以上の場合はより重要になってくるでしょう。たとえば「絶対に広いリビングが欲しい」「日当たりだけは妥協できない」といった譲れないことを叶えられるかどうかで、住み替えの満足度は大きく変わってくるはずです。

50代からの住み替えのポイント
  • ・今の住まいのローン残債と自己資金に応じて売買の順序を判断する
  • ・売却する不動産は「きれい」な状態にしておく
  • ・幅広い選択肢を持つ
  • ・「優先順位」をつけることが満足のいく住み替えをするための大きなポイント

7. 老後を見据えたライフプランや資金計画を立て、安心で快適な生活につながる住み替えにしよう

50歳以上の住み替えで大事になってくるのは、老後の生活にしわ寄せのいかない資金計画を立てることです。資金計画を立てるうえでは、ライフプランを明確にしておくことも求められます。住み替えは、これからの生活をより豊かに、より充実したものとする目的で行うものです。安心で快適な生活ができるよう「今」だけでなく「未来」を見据えて進めていきましょう。

橋本 秋人 (はしもと あきと)
FPオフィスノーサイド代表 NPO法人ら・し・さ(終活アドバイザー協会)副理事長/終活アドバイザー CFP® 1級FP技能士 不動産コンサルティングマスター/東京都出身。大手住宅メーカーで30年以上、顧客の相続対策支援、不動産活用、分譲地開発などに携わる。独立後は、終活、相続、住宅、不動産投資を中心にセミナー、コンサルティング、執筆等を行っている。執筆「よくわかる不動産の相続2023年版(日本経済新聞・共著)」など