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これからのリノベーションに求められる視点とは〜中古リノベ最前線!リノベーション・オブ・ザ・イヤー受賞作品から学ぶ【後編】

島原 万丈

2024年12月、リノベーション・オブ・ザ・イヤー2024の受賞作品が決定しました。リノベーション・オブ・ザ・イヤーとは、全国のリノベーション会社が手がけたリノベーション作品からその年を代表するものを選び、表彰するアワードです。

その選考委員長を務めるLIFULLHOME’S総研所長の島原 万丈(しまはら まんじょう)が、前編・中編・後編の3編に分けてリノベーションの最新トレンドを解説。すでに公開している前編では、リノベーションにおけるトレンドの変遷やアイデアについて。中編では、トレンドとなるキーワードごとにリノベーション・オブ・ザ・イヤー2024と過去の受賞作品を紹介しました。

後編の本記事では、未来の住まいやこれからのリノベーションに求められる視点を紹介します。

1. これからの住まいは「中古住宅+リノベーション」が当たり前に

日本は長らく「マイホーム=新築」という意識が強く「中古住宅は新築を買えない人が買うもの」という考えが主流でした。リノベーションの事例が広く見られるようになってからまだ日は浅いですが、近年は建築費や資材価格も上がり、職人がどんどん少なくなっていることもあって、改めてリノベーションが注目されています。

「新築」は高嶺の花に

今後、住宅供給数が減っていくことは目に見えており、これからの時代は「新築」という選択ができる人は限られてくるでしょう。欧米諸国を見ても、中古住宅=ストックが市場の中心です。そもそも新築住宅の供給はとても少ないのです。

確かに1970年代ごろまでに建てられた中古住宅は総じて性能が低く、状態が悪いものも少なくありませんでした。しかし、今や築30年と言っても1995年に建てられた新耐震基準の建物です。築20年なら2005年築ですが、コストダウンが激しい昨今の新築に比べると贅沢な仕様で作られています。日本には十分活用できる住宅ストックが行き渡っていると言えるでしょう。

「未来」というより、もうすでに中古住宅を購入し、状態によってはリフォームやリノベーションをすることが当たり前になってきています。空き家が増え、人口が減少していくことを鑑みても、中古住宅をリノベーションして住み継ぎ、社会全体で循環させていくことが求められています。

「中古住宅+リノベーション」は幸福度が高い選択

LIFULL HOME’S総研が過去5年間に住まいを購入した人に「幸福度」などを聞いたところ、注文住宅が最も満足度や幸福度が高く、次点は取得後に自らリノベーションした家という結果になりました。さらに「家がもたらす自己実現」という項目では、取得後にリノベーションした家が注文住宅を上回ります。

リノベーションは選択の積み重ねであり、どのような改修をするかを検討するにあたっては、今の暮らしや将来のライフスタイルを考える必要があります。こうした過程が必要だからこそ、リノベーションが自分たちの理想の暮らしや住まいを見つめなおすきっかけになります。

図1:住宅タイプが家の幸福度へ与える影響

取得後にリノベーションした住宅の満足度は総じて高く「家がもたらす自己実現」という項目は注文住宅を上回る(画像出典:LIFULL HOME’S総研)

リノベーションの前には「検査(インスペクション)」を

中古住宅を購入する際にも、リノベーションする際にも、必要になってくるのが検査(インスペクション)です。検査することで建物のコンディションに応じたリノベーションができ、その後のメンテナンスの計画も立てやすくなります。

マンションは区分所有者の意思で検査(インスペクション)をできるのが専有部に限られるため、共用部の管理状態については大規模修繕履歴や修繕計画を見ることも大切になってくるでしょう。

これからの住まいは「中古住宅+リノベーション」が当たり前に
  • これからの時代は新築住宅を選択できる人が限られてくる
  • 「中古住宅+リノベーション」は幸福度が高く、自己実現もできる選択肢
  • 売買時・リノベーション前の「検査」が欠かせない

2. これからのリノベーションに不可欠な視点

2025年4月に建築物省エネ法や建築基準法が改正されたこともあって、思い描く理想のリノベーションをするにはコツがあります。快適性や資産性、実現可能性、そして環境配慮も重視すべきポイントになってくるでしょう。

2025年4月省エネ基準適合義務化

2025年4月から、省エネ基準適合義務化がスタートしました。新築住宅に加え、中古住宅の増改築部分も省エネ基準に適合させなければなりません。

2030年までに、省エネ基準はZEH水準にまで引き上げられる予定です。現在の省エネ基準は、外皮性能、断熱等性能ともに等級4。世界的にみれば決して高い水準とは言えません。

今後、この基準は見直されていく予定です。リノベーションで目指す省エネ性能もZEH水準が最低ラインになってくるのではないでしょうか。

単に省エネ性能を上げればいいわけではない

住まいの省エネ性能を向上させるための改修で、ゴミや二酸化炭素を多く排出してしまうのは決してエコとは言えません。これからのリノベーションに求められるのは、性能向上だけでなく、環境配慮という視点です。

中編で紹介したように、今後は、再利用やリメイクというサーキュラー・エコノミー(循環経済)的な省エネ改修の一歩先を行く発想のリノベーションが主流になっていくかもしれません。

大切なのはリノベーション会社選び

省エネ性能の向上や環境配慮型の改修をするうえで大切になってくるのは、リノベーション会社選びです。省エネ性能を高めるには細かな計算が必要です。省エネ基準適合義務化と同時に4号特例が縮小されたこともあって、建築確認申請などの手間も煩雑化しています。こうした法改正にも適切に対応できるかどうかは、依頼前に確認しておかなければなりません。

省エネ改修の補助金は手厚い

省エネ改修には、国が非常に手厚い補助金制度を用意しています。耐震補強についても同様です。

たとえば、「子育てグリーン住宅支援事業」では、開口部の断熱改修・躯体の断熱改修・エコ住宅設備の設置のうち、2つ以上のリフォームを実施すると最大60万円が補助されます。名称に「子育て」とついていますが、中古住宅の改修については子育て世帯以外を含むすべての世帯が対象です。

他にも各自治体による制度などがあり、住宅ローンを組む場合には住宅ローン減税が適用になる可能性もあります。リノベーション会社がこうした制度を網羅的に把握して、親切に教えてくれるとは限らないため、リノベーション前に必ずチェックしておきましょう。また、補助金制度や減税の仕組みにまで精通しているかどうかは会社選びの一つの指標となります。

これからのリノベーションに不可欠な視点
  • 2025年4月から新築住宅・増改築部分の省エネ基準適合が義務に
  • 2030年までに省エネ基準はZEH水準まで引き上げられる予定
  • これからのリノベーションに求められるのは性能向上だけでなく環境配慮という視点
  • 省エネ性能の向上あるいは環境配慮型の改修をするうえで大切になってくるのは会社選び
  • 省エネ改修に対する補助金制度は手厚い

3. 専門会社に頼むことだけがリノベーションではない

リノベーションの注目度が上がり、全国に広まっていったのは2010年代のことです。この頃「DIY」の注目度も高まりましたが、私が思っていたより広まりませんでした。

どちらかと言えば近年はタイパ(タイムパフォーマンス)を求める人が増え、住まい選びにあれこれ悩むのが面倒、住空間においても“無難な完成品”を求める傾向にあります。住まいが「ファスト化」していると言ってもいいかもしれません。ただ、前述した通り、リノベーションは住まいの幸福度を高める効果が高いのです。築浅の中古物件や買取再販マンションなど、そのまま住める住宅を買ったとしても、DIYで少しだけでも自分で手を入れることで、自己実現を実感できて家への愛着も高まります。

また、すでに懸念されていることですが、職人不足は今後さらに深刻化するでしょう。そうなってくると、補修やちょっとした改修くらいは自分でできるようになるとよいと思います。海外では、壁紙は自分で張る、簡単な塗装は自分で行うのが一般的です。

リノベーションではなく「DIY」という選択肢も
  • DIYは手軽なリノベーション
  • 中古住宅流通がさかんな欧米諸国ではDIYが一般的
  • 職人不足もあって補修やちょっとした改修は自分でできるようになるとよい

4. 快適に住み、資産価値を維持するためにも、未来を見据えたリノベーションを考えたい

これからの住まいは「中古住宅+リノベーション」が主流となり、新築住宅の購入は限られた人の選択肢になっていくものと予想されます。リノベーションは「原状回復」に留まらず、性能を高めることによって快適性や資産性の向上も見込めます。持続可能な社会の実現に向け、リノベーションの役割はさらに重要になっていくでしょう。

島原 万丈 (しまはら まんじょう)
(株)LIFULL LIFULL HOME’S総研 所長。1989年(株)リクルート入社、2005年よりリクルート住宅総研。2013年3月リクルートを退社、同年7月、(株)LIFULL(旧株式会社ネクスト)に設置された社内シンクタンクLIFULL HOME’S総研所長に就任し、独自の調査研究レポートを元に「住」領域の情報発信および提言活動に従事。(一社)リノベーション協議会設立発起人・エグゼクティブアドバイザー、内閣府地方創生推進アドバイザーほか、国土交通省、地方自治体、業界団体のアドバイザー・委員を歴任。