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これまでのリノベーションのトレンド・傾向を専門家が解説!〜中古リノベ最前線!リノベーション・オブ・ザ・イヤー受賞作品から学ぶ【前編】

島原 万丈

2024年12月、リノベーション・オブ・ザ・イヤー2024の受賞作品が決定しました。リノベーション・オブ・ザ・イヤーとは、全国のリノベーション会社が手がけたリノベーション作品からその年を代表するものを選び、表彰するアワードです。リノベーションのトレンドは、その時どきの経済やマーケットの状況の影響を色濃く受けて変化しているため、受賞作品を見ることで中古住宅選びやリノベーションのヒントが得られます。

そこで、リノベーション・オブ・ザ・イヤーの選考委員長を務めるLIFULLHOME’S総研所長の島原 万丈(しまはら まんじょう)が、前編・中編・後編の3編に分けてリノベーションの最新トレンドを解説します。前編の本記事では、これまでのリノベーションのトレンドの変遷やリノベーション・オブ・ザ・イヤー2024受賞作品から学ぶアイデアとトレンドを紹介します。

1. リノベーション・オブ・ザ・イヤーとは?

リノベーション・オブ・ザ・イヤーは、(一社)リノベーション協議会が2013年から毎年開催しているアワードです。協議会に加盟する全国の会社が手掛けたリノベーション作品から、その年の「顔」とも言える代表的な作品を選出して表彰しています。

私はこのアワードの企画・立案段階から深く関わり、第1回目から選考委員長を務めています。この10年余りで、リノベーションのトレンドにも変化が見られます。

リノベーション・オブ・ザ・イヤーとは
  • リノベーション・オブ・ザ・イヤーは、(一社)リノベーション協議会が2013年から毎年開催しているアワード
  • 協議会に加盟する全国のリノベーション会社が手掛けたリノベーション作品から、その年の「顔」とも言える代表的な作品を選出して表彰
  • リノベーションのトレンド・傾向は10年余りで変化

2. これまでのリノベーションのトレンド・傾向の変遷

各年度のリノベーション・オブ・ザ・イヤー受賞作品には、時代が住宅に求めるものの変化が如実に表れています。

2013年〜2015年

かつてリノベーションと言えば、都市部のマンションが中心でしたが、郊外や一戸建てにまで波及し始めたのが2013年〜2015年頃です。また、ビルをホテルに改修したり、大きな住宅をシェアハウスに改修するなど、住宅だけでなく事業案件も見られ始め、リノベーションの範囲が拡張していった時期にあたります。

デザイン面で言えば、新築では見られない色味やこだわりの強いリノベーションが多く見られました。単なる改修ではなく、新築に対するカウンターカルチャーとでも言うべきスタンスがはっきりしていて、施主のこだわりを反映した個性的なリノベーションが多かった時期です。

図1:2013年 総合グランプリ受賞作品

レモンイエローの壁やガラスブロックの腰壁が白い天井に映える。2013年〜2015年頃のリノベーションは、新築物件にはない個性的なデザインが目立った(出典:リノベーション・オブ・ザ・イヤー2013

2016年〜2019年

2016年頃からは、リノベーションは社会課題の解決のための方法であるという認識が定着するようになってきました。たとえば、空き家問題の解決や地域再生、省エネ性能や耐震性など住宅性能を向上させるリノベーションが広まったのがこの時期からです。

始まりは2015年にありました。一つの建物だけでなく敷地全体をリノベーションし周辺エリアにまで波及する団地再生が総合グランプリ、断熱性能を大きく向上させた一戸建てが部門最優秀賞を受賞しましたが、2016年以降、その流れを汲んだ作品が大きな広がりを見せ、社会性がリノベーション・オブ・ザ・イヤーの必須条件のようなモードになりました。

図2:2015年 総合グランプリ受賞作品

団地の豊かな外構部分を、あえて車が進入しない「みんなが集う駅前広場」に改修(出典:リノベーション・オブ・ザ・イヤー2015

また、リノベーション・オブ・ザ・イヤーの受賞作品に中古マンションの買取再販というジャンルが加わり始めたのもこの時期です。2018年には、後の買取再販マンションの進化を予感させる作品が総合グランプリに輝いています。

買取再販というビジネスは従来からありましたが、どちらかと言えば表層や設備のリフレッシュで新築マンションのように仕上げた事例がほとんどで、デザインや性能の面ではあまり見るべきものがありませんでした。ところが2013年のアベノミクス以降、新築マンションの価格が上昇しつつ供給数は大きく絞り込まれたことから、中古マンション市場が拡大していきます。それにともない多くの事業者が買取再販事業に参入し、競争が激化していく中で、個性的なデザインや断熱性能を向上させたリノベーションを施した提案性の高い再販マンションが生み出される背景になっています。

図3:2018年 総合グランプリ受賞作品

1999年に建築家黒川紀章氏が設計した物件を再販リノベーション(出典:リノベーション・オブ・ザ・イヤー2018

2020年〜2021年

この時期のリノベーションは、良くも悪くもコロナ禍を抜きに語れません。コロナ禍では、私たちのライフスタイルに突然の変化が求められました。

2020年、2021年のリノベーション・オブ・ザ・イヤーには、コロナ禍で要請されたリモートワークを前提としたプランや職住一体の新しい住まい方を提案したリノベーションが多く提出され、新築に比べて工期の短いリノベーションが機動力の高さを証明しました。

またこの頃から、デザイン面では、新築へのアンチテーゼ的な尖った個性よりも、柔らかで安らぎが感じられるデザインや、体感的・感覚的な心地よさを重視した空間を目指したものがトレンドになっています。このような流れは「ウェルビーイング」という言葉を使って表現するのがふさわしいような気がします。

図4:2020年 総合グランプリ受賞作品

リモートワーク時代における職住融合のモデルケースとして評価された(出典:リノベーション・オブ・ザ・イヤー2020

2022年〜2023年

コロナ禍が落ちついてきてからは、これまでの10年余りで見られていた社会課題の解決や住宅性能の向上といったコンセプトが高次元で融合する改修が見られます。社会的課題の解決については医療や福祉の分野まで届き、一戸建てが先行していた性能向上は、買取再販のマンションにも多く見られるようになりました。

図5:2023年 総合グランプリ受賞作品

指定難病と戦う友人をきっかけとして誕生したプロジェクト。居室としても通用する機能性と快適性を備えたトイレ空間を備えたマンションを再販(出典:リノベーション・オブ・ザ・イヤー2023
これまでのリノベーションのトレンド・傾向の変遷
  • 2013年〜2015年:リノベーションの範囲が拡張、個性的なものが多い
  • 2016年〜2019年:リノベーションに社会性が求められ始めると同時に、デザインや機能を追求した買取再販物件が目立ち始める
  • 2020年〜2021年:新しい住まい方を体現したリノベーションが目立つ
  • 2022年〜2023年:これまで見られていたコンセプトが高次元で融合

3. リノベーション・オブ・ザ・イヤー2024の注目トレンド

リノベーション・オブ・ザ・イヤー2024受賞作品についても、今の経済状況や住まいへのニーズが色濃く表れています。

「コストダウン」の工夫

近年は、建築コストが大幅に上がり、不動産の価格高騰も止まりません。このような中、リノベーション・オブ・ザ・イヤー2024では「いかにコストを抑えるか」という視点を重視したリノベーションが多く見られました。

コストダウンの工夫として、スケルトンにしてフルリノベーションするのではなく、既存部分を活かし、一度解体したものを再利用する作品が目立ちます。部分的なリノベーションで済むのは、住宅ストックの質が全体的によくなってきていることにも起因しているでしょう。

図6:2024年エントリー作品

築26年で、まだまだ住める一戸建てをキッチンの老朽化や暮らしの変化を背景にリノベーション。普段はリビングにいることが多いことからリビング部分のみを工事範囲としたというもの(出典:リノベーション・オブ・ザ・イヤー2024

「循環」という新しいコンセプト

既存部分を活かした改修や解体したものの再利用は、コストダウンだけが目的ではありません。できるだけ壊さず、使えるものを同じ空間で活かすことはエコであり、省エネの本質的な目的からすれば、高性能な住宅に改修したとしても、その過程で大量のゴミや二酸化炭素が排出されるようでは問題です。

省エネ性能の向上は、2016年頃からリノベーション・オブ・ザ・イヤーにおいて欠かせない視点でした。それが、ここに来て「省エネ改修の一歩先」を意識した取り組みが見られるようになっています。それは、サーキュラー・エコノミー(循環経済)的な発想で建材や設備の再利用や再生を重視する「サーキュラー建築」の考え方です。

2020年のオブ・ザ・イヤーですでにその萌芽的な作品がありましたが、再利用というコンセプトを徹底させた2024年の総合グランプリの「ReMAKE」は、まさにサーキュラー建築への挑戦だったと言えるでしょう。2025年以降も、こうした「循環」の発想を持った作品が広がっていくのか、注目したいところです。

図7:2024年 総合グランプリ受賞作品

解体ではなく、部分的に手を加えて空間を再構成することに挑戦した実験的プロジェクト(出典:リノベーション・オブ・ザ・イヤー2024

「住み継ぐ」という視点

都市部では見られない「住宅ストックの豊かさ」は地方の魅力です。住環境のよさは地方創生の重要な武器になるでしょう。Uターンや実家の相続などを背景に、地方の住宅ストックを改修する事例も増えています。相続案件自体が増えていることもありますが、大都市のマンションから始まった住宅リノベーションが木造一戸建て中心の地方へも拡大し、着実に地方のリノベーション会社が力を付けてきたことも増加要因の一つでしょう。

住み継ぐことは中古住宅という資源の「循環」そのものです。必ずしも「親から子へ」という形だけではなく「他人同士で家を住み継ぐ」というコンセプトのもとでリノベーションした事例を見られたことが大変興味深かったです。

図8:2024年 1,500万以上部門最優秀賞作品

建物が古いことを案じて解体を売却の条件としていた売主を説得し、買主がリノベーション(出典:リノベーション・オブ・ザ・イヤー2024
リノベーション・オブ・ザ・イヤー2024の注目トレンド
  • いかにコストを抑えられるかという「コストダウン」の工夫
  • 「循環」という新しい視点、サーキュラー・エコノミー的な取り組み
  • 住宅ストックを「住み継ぐ」ための改修

4. 「社会性」にも注目!自分らしく住みながら循環型社会を目指す

リノベーション・オブ・ザ・イヤーの12年間の歴史の中で、リノベーションのトレンドは大きく変化してきました。初期は都市部のマンション中心で個性的なデザインが特徴でしたが、次第に地方や一戸建てへと広がり、2016年頃からは地域再生や省エネ性と耐震性の性能向上などの社会性が求められるようになっています。

2024年の受賞作品には、省エネ改修の一歩先を行く「循環」という視点のリノベーションも見られます。リノベーションは、単なる改修から、社会課題解決や持続可能性を追求する手段として進化を続けています。

島原 万丈 (しまはら まんじょう)
(株)LIFULL LIFULL HOME’S総研 所長。1989年(株)リクルート入社、2005年よりリクルート住宅総研。2013年3月リクルートを退社、同年7月、(株)LIFULL(旧株式会社ネクスト)に設置された社内シンクタンクLIFULL HOME’S総研所長に就任し、独自の調査研究レポートを元に「住」領域の情報発信および提言活動に従事。(一社)リノベーション協議会設立発起人・エグゼクティブアドバイザー、内閣府地方創生推進アドバイザーほか、国土交通省、地方自治体、業界団体のアドバイザー・委員を歴任。