買うコツ

中古物件の見学で見るべきなのは物件だけではない?不動産会社選びと聞くべきこと、物件を内覧するときの心構えとは

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内山 博文

中古物件の見学と言えば、主に「物件内部を見るためのもの」だと考えていませんか?もちろん、細かな部分までチェックすることも物件見学の目的の一つではありますが、視野を広げ、建物全体や取引全体に目を向けることも大切です。

本記事では、中古物件を見学するときの「心構え」について、不動産会社との付き合い方やヒアリングすべきこと、見るべきポイントなどを(一社)リノベーション協議会 会長の内山博文(うちやま ひろふみ)が解説します。

1. まず、案内してくれる不動産会社の「立ち位置」を知る

物件見学というと「どの部分をチェックする?」という話になりがちです。しかし、現地で実際に物件を案内してもらう物件見学は、不動産会社の担当者から直接説明を受けられるチャンスでもあります。物件見学でいかに情報を聞き出し、取引の全貌を把握できるかは、いい不動産取引をするうえで非常に大切なことです。しかし、その前に案内をしてくれる不動産会社の立ち位置を知ることが重要です。では立ち位置とは、具体的には何を指すのでしょうか。

この説明にはまず、不動産の「仲介」の仕組みについて知ることが必要です。日本の不動産取引では、同じ不動産会社が売主、買主、両者の仲介担当者になることができます。これを業界では通称「両手取引」と言います。

図表1:両手取引とは
概要図
(図:中古住宅のミカタ編集部作成)

売主と買主は利益相反する関係性です。同じ弁護士が被告と原告を弁護したら裁判が成立しないように、本来であれば一つの不動産会社が売主、買主の利益を最大化することは難しいと言えます。これを「双方代理」と言い、法律で禁止されています。ところが、不動産の売買・賃貸借の契約を媒介することは双方代理には当たらないとされているのです。

不動産会社の立場や心理に目を向ける

日本では仲介を媒介とも言い、両手取引が可能です。しかしながら全ての取引を一つの不動産会社が仲介しているわけではありません。売主、買主、それぞれに別の不動産会社が付くこともあります。

物件見学の際にまず確認しなければならないのは、案内してくれる不動産会社が、まず売主側に立つ不動産会社なのか、買主だけを担当する不動産会社なのか、あるいは、売主側の不動産会社である立場で買主も自社の顧客にしようとしているのか、を知る必要があります。これを知っておくことで、自分に有利に購入を進めることができます。

両手仲介が必ずしも不利な取引につながるわけではないのですが、不動産取引とは、一種の「駆け引き」です。有利に取引を進めるためには、売主の状況や意向だけでなく、仲介する不動産会社の立ち位置や心理を知ることも大切になってくるのです。

売主の「媒介契約」によっても不動産会社の立場は異なる

売主側の仲介および販売活動をする不動産会社は売主との間で「媒介契約」を締結しています。この媒介契約には、次の3つの種類があります。

  • 一般媒介契約
  • 専任媒介契約
  • 専属専任媒介契約

このうち「一般媒介契約」は、売主が複数の不動産会社に販売活動を依頼できます。つまり、売主と一般媒介契約を締結している不動産会社からすれば、他にライバルがいるということ。少しでも売主有利に取引を進めなければ他社に負けてしまう可能性があるため、他の媒介契約と比較して買主に寄り添った仲介には期待できません。

媒介種別は、売主の不動産会社に聞けば教えてくれます。物件見学時には、物件を見るだけでなく、案内をしてくれる不動産会社と会話することで相手の立場を探ってみましょう。

物件見学ではまず不動産会社の「立ち位置」を知ることが大切
  1. 不動産会社が買主の利益も考えてくれる立ち位置なのか見定める
  2. 売主と不動産会社の「媒介契約」も確認することで取引におけるスタンスが見えてくる

2. 物件見学の「申込み方法」にもコツがある

今はインターネット上に物件情報が溢れており、昔のように不動産会社に相談しなくても、買主自らがスマートフォン1台で物件を探せます。しかし、不動産ポータルサイトなどに物件情報を掲載しているのは、売主側の不動産会社です。掲載元の不動産会社に連絡することで物件見学はできますが、この行為は掲載元の不動産会社に自分の仲介をお願いしていることと同義。つまり、自ら両手仲介になる構図を作り上げてしまっているのです。

もちろん物件そのものの希少性や難易度によっても両手仲介が必ずしもだめであるとも限らないのですが、このあたりは物件力とのパワーバランスで決まります。

買主の利益を守る方法

買主が自身の利益を守るために大切なのは、自分だけのエージェント、あるいは不動産会社に仲介を依頼することです。物件見学についても、不動産会社やエージェントを通して申込むのがベターと言えるでしょう。「ベスト」ではなく「ベター」と申し上げたのには理由があります。それは、欲しい物件が業者により「囲い込み」されている可能性があるからです。

囲い込みとは?

囲い込みとは、両手取引をしたい売主側の不動産会社が、他社からの購入希望者の紹介を拒む行為です。残念ながら、両手取引が可能な日本の不動産市場では古くから見られる悪しき慣習であり、今では減ってきているもののいまだ売り物件を囲い込む不動産会社は見られます。囲い込みをされている物件は、他社からの物件見学の申込みを拒否する可能性があるのです。

図表2:囲い込みとは
概要図
(図:中古住宅のミカタ編集部作成)

「どうしても欲しい」という物件が囲い込みされているようであれば、販売元の不動産会社に問い合わせるのも方法の一つになるでしょう。とはいえ、囲い込みは、業界的にも法的にも許容できるものではありません。自身の利益を守るためには、やはり買主専属の不動産会社やエージェントに付いてもらうことをおすすめします。

特にリノベーション工事などを行う前提の時には、より買主目線のソリューション(解決方法の提案)が必要になります。対応力はもちろん、物件の状況を積極的に把握してくれるので、リノベーション会社の仲介担当に依頼をすることが好ましいかもしれません。

物件見学の申込み方法のコツ
  1. 物件情報の掲載元に申込むと「両手取引」になる
  2. 買主の利益を守るためには買主専属の不動産会社・エージェントに仲介を依頼しよう

3.「見えないところ」を知るため、不動産会社にヒアリングする

物件見学は、当然ながら物件を見るために行います。しかし、中古物件は、見えない部分にこそ安全性や快適性、資産性を左右する事象が隠れているものです。

不動産ポータルサイトや広告に掲載されているのは、基本的にいい部分だけ。次のような見えない部分を聞くことこそが、物件見学の意義であると私は考えます。購入前提である姿勢を見せれば、たとえネガティブなことであっても売主側の不動産会社は情報を開示してくれるはずです。

修繕履歴

売却に有利に働く修繕履歴は、物件情報として公開されています。しかし「数年前に雨漏りがあって修理した」というようなマイナスの情報、あるいはマンションの共用部の修繕履歴などは、開示されていないケースも多いものです。これらの情報は売買の前に不動産会社が調べ、買主に伝えるべき事項ですが、売買契約の直前になって説明があることも少なからず見られます。しかし、買主からすれば、リスクになり得ることも知ったうえで購入の判断をしたいはず。だからこそ、物件見学の時点で不動産会社が知り得ている情報を聞き出すことが大切なのです。

管理状況(マンション)

マンションの各居宅については売主の所有物ですが、共用部は実質的に管理組合が所有しています。構造上主要な部分に欠陥が見られた場合に対応するのも、実務的には管理組合です。そういった意味では、居住スペースの修繕履歴だけでなく、マンション全体の修繕履歴や今後の修繕計画および修繕積立金の額、管理状況も必ず確認すべきでしょう。

管理規約(マンション)

管理組合では、主に共用部分の範囲や使用方法などについて「管理規約」を定めています。管理規約は所有者、賃借人の別にかかわらず、マンションに住む人全員が守るべきルールです。特にリノベーションを行うことを想定している場合は、管理規約で改修工事の内容や仕様に制限を設けている場合があるので、あらかじめ確認しておきましょう。

元施工会社(一戸建て)

一戸建ての場合は、施工した会社についても聞いておきましょう。施工会社がなくなってしまっている場合もありますが、施工会社の保証期間が残っているケースもあります。施工会社に不法行為があった場合の責任期間は、建築から20年間です。万一、購入後に施工不良による欠陥が見つかっても、もし保証期間内であれば責任を負ってもらえます。これを知っておくことで、より安心して取引ができるようになるかと思います。

近隣トラブル

意外と見落としがちですが、中古住宅は、物件の状況だけでなく周囲の様子やこれまでの近隣トラブルの有無も知ったうえで購入するべきです。特に、都市部は住宅が密集しています。マンションにいたっては、音の問題が常につきまとってくるものです。やはり、過去にトラブルがあった隣人とは購入後もトラブルになってしまうリスクは高いと言えます。どんな隣人が住んでいるか、過去にトラブルがあったのかは、必ずヒアリングしておきましょう。

事前検査やかし(瑕疵)保険

物件の検査を行っているか、かし(瑕疵)保険に加入している物件かを確認することも大切です。検査やかし(瑕疵)保険の詳細は後述しますが、そもそもこれらについて知識がない、または知っていても積極的に実施しようとしない不動産会社は避けた方が無難です。安心な物件を見極めるための方法を熟知しており、リスクも含めてしっかりと説明してくれる不動産会社に依頼しましょう。

不動産会社にヒアリングすべきポイント
  1. 修繕履歴
  2. 管理状況(マンション)
  3. 管理規約(マンション)
  4. 元施工会社(一戸建て)
  5. 近隣トラブル
  6. 事前検査やかし(瑕疵)保険

4.「再販物件だから安心」とは限らない

中古住宅の中には、売主が不動産会社の物件もあります。いわゆる「再販物件」と呼ばれている中古住宅は、不動産会社が買い取った中古住宅をリノベーションして再販している物件です。「リノベーション済みなら安心」と考える人もいるかもしれませんが、必ずしもそうとは限りません。

再販住宅の購入は仲介を挟まないケースが多い

再販物件の多くは、売主の再販事業者自らが販売しています。つまり、買主は仲介会社を挟まずに購入するということ。ご自身で物件状況を知り、購入を判断する必要があります。

もちろん宅地建物取引業者である再販事業者は、2年間の契約不適合責任(以前はかし(瑕疵)担保責任と言いました。)を負いますので、一般的には情報開示がなされ、不利な取引とならないとは思いますが、不動産仲介会社と同様に、中には買主の利益を考えていない再販事業者もいます。住まいの表層だけを綺麗にリノベーションしていても、見えないところは満足に検査もしていなかったり、再販事業者がそもそも建物のリスクについて無知であったりすれば、安心して暮らしていける住宅とは言えないでしょう。

「適合R住宅」は一定の基準を満たしたリノベーション物件

図表3:Rマーク
出典:(一社)リノベーション協議会

私が会長を務めている(一社)リノベーション協議会では、必要な検査と改修を実施したうえでその記録を保管し、給排水管や給湯管など重要インフラに2年以上の保証を付帯しているリノベーション物件を「適合R住宅」として保証書の発行を行うなどのサポートをしています。認定された物件には「Rマーク」の標章が付与されます。現在、(一社)リノベーション協議会に加入している再販事業者は、首都圏で半分ほど。再販事業者やリノベーション物件を見極めるための一つの指標にしていただければと思います。

再販住宅の注意点
  1. 再販住宅の売買では仲介会社を挟まないケースが多い
  2. 表層だけ綺麗にリノベーションされていても安心できるわけではない
  3. 「Rマーク」で安心できる物件か確認を

5. 売買契約前に検討すべき「インスペクション」と「かし(瑕疵)保険」

中古住宅の状況は、売主や不動産会社でさえ全てを把握しているわけではありません。見えないところに不具合がないかを確認するためには「インスペクション・建物状況調査」の実施や「かし(瑕疵)保険」への加入を検討しましょう。

「インスペクション」とは?

中古住宅の検査には広義の「インスペクション」のほか、宅建業法で定められた「建物状況調査」、かし(瑕疵)保険に入るための「かし(瑕疵)保険適合検査」があります。いずれの場合もまず一般的には、基礎や外壁のひび割れ、雨漏りの跡や劣化、不具合の有無を第三者機関の建築士が目視や計測によって調査します。中立的な立場のプロが構造上重要な部位を検査してくれることで、買主の安心につながります。インスペクションは「状況把握」だけでなく、購入後のリノベーションや修繕の計画を立てるうえでも効果的です。

売主にインスペクションを受け入れてもらうには

買主の希望でインスペクションが実施できるのは、購入申込みを入れた後です。ただし、必ず実施できるとは限りません。購入前の物件は売主のものです。売主の同意がなければ、インスペクションは実施できません。

売主にインスペクションを受け入れてもらうコツとしては、まず購入の意思を示すこと。そして、決して粗探しのためにインスペクションを実施するわけではないとわかってもらうことです。売主の立場からすれば、見えていなかった欠陥や不良箇所が明るみに出てしまうことは避けたいもの。インスペクションによって「値下げを要求されるかもしれない」「購入を見送られてしまうかもしれない」という恐怖があるのです。

このような売主の気持ちに寄り添い、「値段を交渉したいわけではない」「現状を把握したい」「リノベーション計画を立てるために必要」といったことを伝えれば、受け入れてもらえる可能性は高まるでしょう。

「かし(瑕疵)保険」とは?

購入時にリノベーションをしない場合は特に「かし(瑕疵)保険」に加入することをおすすめします。かし(瑕疵)保険とは、住宅の基本構造部分と雨水の浸入を防止する部分の一定の不具合による損害を補償してくれる保険です。中古住宅の個人間売買におけるかし(瑕疵)保険は、仲介会社が加入するタイプと検査業者が加入するタイプに大別されます。買主が依頼することで、かし(瑕疵)保険を付帯してもらうことも可能です。

図表4:かし(瑕疵)保険の仕組み
概要図
かし(瑕疵)保険は、万一の補修が必要な場合に高額になりがちな、漏水や建物の構造で重要な部分の不具合を補償する(図:住宅あんしん保証の図を元に中古住宅のミカタ編集部作成)

また、先の通り、インスペクション(建物状況調査)を行えば、その検査結果を活かして、かし(瑕疵)保険に加入することが可能です。

売買契約前には「インスペクション」と「かし(瑕疵)保険」を検討しよう
  1. インスペクション(建物状況調査)で目に見えないところに不具合がないかを確認
  2. かし(瑕疵)保険で構造上主要な部分を補償

6. 物件見学の目的は中古住宅の“詳細”な状況を知ること

物件見学の目的は、中古住宅の状況を把握することです。ここで言う「状況」には、表層だけでなく、目に見えないリスクやトラブル、管理状況、修繕履歴なども含まれます。むしろ表層よりもそちらの方が大切なところです。

物件の見極めのためにも、百戦錬磨の不動産会社とのやり取りの参考にしてください。中古住宅の詳細な状況を知るには、不動産会社に情報を開示してもらわなければなりません。そのためには、不動産会社の立場や心理、売主の気持ちにまで目を向けることが求められます。

プロフィール写真
内山 博文 (うちやま ひろふみ)
愛知県出身。不動産デベロッパー、(株)都市デザインシステム(現UDS(株))を経て、2005年に(株)リビタの代表取締役、2009年に同社常務取締役兼事業統括本部長に就任。リノベーションのリーディングカンパニーへと成長させる。同年に(一社)リノベーション住宅推進協議会(現(一社)リノベーション協議会)副会長、2013年より同会会長に就任。2016年に不動産・建築の経営や新規事業のコンサルティングを主に行うu.company(株)を設立し独立。同年に不動産ストック活用をトータルでマネジメントするJapan.asset management(株)設立。2019年より(株)エヌ・シー・エヌの社外取締役。2021年よりつくばの中心市街地の活性化を目指す、つくばまちなかデザイン(株)の代表取締役も務める。