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暮らしかた冒険家の考える「中古住宅+リノベ」と「新築」の違い ——実体験から住み心地を検証

伊藤 菜衣子

「中古住宅と新築住宅どちらにしよう……」と悩んでいる人もいるかもしれません。中古住宅と言えば、気になるのが、断熱性や耐震性などの住宅性能ではないでしょうか。しかし、昨今では、中古住宅をリノベーションし、新築住宅やそれを上回る性能に高めて住むこともできます。 本記事では「暮らしかた冒険家」の伊藤菜衣子が、自身の体験から「中古住宅+リノベ」と「新築住宅」の住み心地について考察します。

1. 住み心地がいい家=住宅性能が高い家

私は2023年現在、2020年に建てた新築住宅に住んでいますが、これまで北は北海道、南は熊本まで住まいを転々としてきました。熊本では築100年くらいの町家をセルフリノベーションしたり、札幌では築30年ほどの中古住宅をリノベーションしたり、はたまた注文住宅を建てたり……「暮らしかた冒険家」として、さまざまな場所、環境、住まいで色々な暮らし方に挑戦してきました。

熊本の家のセルフリノベーション中の様子(画像提供:伊藤菜衣子)

そんな私が考える住み心地のよい家とは「住宅性能が高い家」です。

【1】1年中快適

現在の住まいは、愛知県に建てた注文住宅です。断熱等性能等級は、現在の省エネ基準を大きく上回る「等級6」相当。夏は涼しく、冬は暖かく、1年中快適です。愛知県に住む前に住んでいた札幌では、中古住宅をリノベーションし、同じく等級6相当まで断熱性を高めました。

図1:断熱等性能等級
2022年の基準改正で等級7まで引き上げられました。それまでは等級4が断熱等性能等級の最高グレードでしたが、等級4は2025年からすべての新築住宅に義務付けられる基準です。(画像出典:国土交通省

【2】省エネ

札幌の家も、断熱性能向上リノベーションを施し、断熱等性能等級6相当まで上げました。リノベ-ション前の年間の薪消費量は9㎥でしたが、それが3㎥に。薪割りも自分たちでしていたので、暖かいことはもちろん、薪調達の手間や時間、コスト、そして薪置き場の面積が減った分、暮らしの自由度が上がりました。

札幌の家の薪ストーブ(画像提供:伊藤菜衣子)

現在の家は、90㎡ほどあって、2階は勾配天井で天井高もあるのですが、家の中にあるエアコンは1台だけ。しかも、14畳用です。この1台で夏は涼しく、冬は床暖房を1日1時間だけつければ暖かい。夏は26℃、冬は22℃ほどをキープしています。

【3】生活負荷が下がる

断熱性能が高い家は、これまで「当たり前」だと思っていたことが当たり前ではなくなります。たとえば、冬でも、朝、布団から出たくないなんてことはありません。1年中、家の中が春や秋のような温度と湿度のため、厚手の部屋着もいらず、洗濯も楽です。

息子がお風呂上がりに裸のままでいても気になりません。子どもを叱る理由の大半って「時間に遅れないため」「風邪をひかないため」だと思うのですが、家が1年中、快適な温度だと、子どもを叱ることも減るんですよ。

これらの無数の小さなストレスは、以前は気が付かずに生活していて、断熱性能が変わったことで気がついたけれど、すぐに当たり前になってしまう。でも、よく考えればとても大きな変化です。日常の生活の負荷がかなり下がりました。

<住宅性能の高い家のメリット>
  1. 1年中快適
  2. 省エネ
  3. 生活負荷が下がる

2. リノベーションで住宅性能は高められる

リノベーションした札幌の家は、私が9歳まで住んでいた元実家です。リノベーション当時で築30年を超えていましたが、省エネ基準より高い断熱性能にし、気密性・耐震性を高めても、当時かかった費用は約680万円。工期は、2ヶ月弱でした。

リノベーション後の札幌の家(画像提供:伊藤菜衣子)
リノベーション前の札幌の家(画像提供:伊藤菜衣子)

【1】新築の義務化基準の性能を超えることも可能

寒い地域の家なので、リノベーション前も、断熱等性能等級は「等級4」相当でした。等級4と言えば、2025年からすべての新築住宅に義務付けられる基準を満たす性能です。

ただ、住宅性能って「基準」さえ満たしていればいいというものではないんですよね。断熱性能だけに限りません。気密性にいたっては明確な基準が設けられていません。また耐震性能も基準値からさらに高めることも可能です。

【2】付加断熱と樹脂サッシで断熱等性能等級6を実現

具体的に行ったリノベーションは、次の通りです。

  • 外壁を剥がして付加断熱を
  • 玄関ドアを断熱ドアに交換
  • 出窓をなくし、トリプルガラス樹脂窓に
  • 太陽の光と熱を家の中にたっぷり取り込めるように南側の窓を拡張

これらの施工で、断熱等性能等級4から6まで上がりました。このリノベーションをした2016年は、断熱性能を向上したリノベーションの事例はほぼありませんでしたが、最近では目にすることも増えました。

【3】耐力面材で耐震性・気密性が上がる

このリノベーションでは、外壁を剥がして「ダイライト」というボードを入れたのですが、このボードを入れることで気密性が上がるとともに、耐震性も高められるんです(ただし、北海道の気候を前提とした気密層の位置なので、それ以外の地域の方は、検証してから実践してください)。ダイライトの外側にさらに付加断熱を入れることで、断熱性もUP。リノベーションでも、十分、住宅性能を高めることは可能です。

外壁の施工の様子。まずダイライトを張り(画像提供:伊藤菜衣子)
さらにその上に断熱材(押出法ポリスチレンフォーム)を入れたうえで外壁材で仕上げた(画像提供:伊藤菜衣子)
<リノベーションで住宅性能は高められる>
  1. 付加断熱やサッシなど設備の交換をすれば新築の義務化基準の性能を超えることも可能
  2. 性能向上リノベーションは近年多く見られる
  3. 耐力面材で耐震性や気密性も高められる

3. 「新築住宅でしかできないこと」とは?

札幌に住んでいた頃に夫と出会い、結婚。夫の職場は愛知だったので、また中古住宅を購入してリノベーションしようと思っていたのですが、ちょうどよい物件が見つからず、夫から注文住宅を建てることを提案されたんです。

私はフリーランスなので、一人で35年ローンを組むことは難しい。だけど、夫はサラリーマン。30歳代で古家のリノベーションや断熱改修リノベーションに加えて注文住宅を建てる経験までできるなんて、楽しそう!……こういった経緯で、注文住宅を建てることになりました。

【1】一からの家づくり

これまでリノベーションしかやってこなかったので、一からの家づくりに苦労した部分もありました。図面とにらめっこしながら間取りを決めていったり、照明やスイッチの位置を選んだりするのが、ここまで難しいとは思いませんでした。

家の両面が道路に面するため、風が通って明るい室内。照明や家事動線にもこだわった(画像提供:伊藤菜衣子)

【2】思い切った間取り構成

高断熱・高気密の家は、家の中の温度や湿度が一定に保たれやすいという特徴があります。洗面室も、湿っぽくならないんですよね。ですから、新築で建てた家は、洗面所、トイレ、お風呂などのサニタリールームのすぐ横にウォークインクローゼット兼ランドリールームを設けました。それでもクローゼットに湿気がこもったり、カビが発生することなどはありません。家事動線がよく、非常に便利です。

札幌の家は予算が約680万円だったこともあり、間取りの大きな変更はできなかったんです。もちろんリノベーションでも間取り変更は可能ですが、ここまで思い切った間取り構成ができるのは、注文住宅だからこそかもしれません。

洗面所、トイレ、お風呂。左手前にはウォークインクローゼット兼ランドリールームが接しているが、高断熱・高気密の家では湿気がこもるなどの心配がなく暮らせている(画像提供:伊藤菜衣子)
<新築住宅でしかできないこと>
  1. 全て一から、細部にこだわった家づくり
  2. 思い切った間取り構成(コストをかければ中古住宅でも実現可能)

4. 「中古+リノベ」が合理的な選択肢である理由

「中古+リノベ」、新築住宅、いずれも経験した私ですが、それぞれにメリットがあり、向き不向きがあるでしょうけど、合理的かどうかで言えば「中古+リノベ」が勝ると思います。その理由は、次の3つです。

札幌の家のリノベーションの様子(画像提供:伊藤菜衣子)

【1】低コスト

新築住宅と比較して、中古住宅は躯体が安価です。リノベーションには一定の費用はかかりますが「断熱・気密性能だけ」とか「設備だけ」「壁紙だけ」など、予算と希望に応じて必要な部分だけを選んで改修できます。

断熱性を高めるとしても、既存の断熱材をそのまま使って付加断熱にすれば、新築で建てるより大幅にコストを削減できます。既存の断熱材の劣化が激しいこともあるので例外もありますが……。

【2】ニーズが伝わりやすく、こだわりを反映しやすい

注文住宅は、何もない状態から自分の希望を形にしていきますが、中古住宅をリノベーションする場合は現物があるので、素人でも考えやすく、ニーズが伝えやすいです。注文住宅を建てるときは、間取りや設計図を基に色々議論していくわけですが、やはり机上でわかること、イメージできることには限界があります。

とはいえ、リノベーションなら100%こちらの意向が伝わるかというと、そうではありません。理想が伝えやすく、こだわりが反映しやすいものの、性能についてはできる限り数値や等級などで意向を伝えることをおすすめします。

【3】環境負荷を軽減できる

注文住宅を建てて驚いたことの一つが、廃棄物と資材や設備の量です。今にも崩れそうな家が建っていた土地を購入したので、古家を解体して撤去したのですが、この廃棄物の量がリノベーションをしたときとは比べ物にならなくて。環境によい家を新たに建てるにしても、建てる時も、その前にも一定の環境負荷はあるんですよね。今あるものを大切にし、ゴミを増やさなくていいというのは「中古+リノベ」のメリットと言えるのではないでしょうか。

<「中古+リノベ」が合理的な選択である理由>
  1. .低コスト
  2. ニーズが伝わりやすく、こだわりを反映しやすい
  3. 環境負荷を軽減できる

5. リノベーションも新築もプロ任せにすると後悔する!?

「中古+リノベ」、新築住宅、いずれもプロに任せきりにすると、自分が思い描くものとは違った仕上がりになってしまいかねません。プロだからといって希望を100%理解してくれるとは思わず、施主自身も学ぶべきことは学び、しっかり言語化して伝えることが大切です。

【1】プロとの間に大きな知識の差がある

新築の施工にしても、リノベーションにしても、ハウスメーカーや工務店、建築士、設計士と私たち施主の間には、大きな知識の差があります。そして、この差がどれほどのものなのかも、なかなかわからない。専門家に希望を聞かれて、よくわからず返答してしまったり、自分の希望が言語化できなかったりしたばかりに、施工後「こんなつもりじゃなかった!」なんてことも起きてしまいかねません。

さらに、知識だけでなく、両者の間には圧倒的な情報差もあります。施主が、おしゃれな住宅雑誌などを見て理想の家づくり、理想のリノベーションを思い描いていても、ふんわりとした希望を伝えたところで全く伝わらないことも……。ハウスメーカーや工務店の「常識」は、必ずしも最新の事例やニーズを意識したものとは限らず、住まい手の常識と一致しているとも限りません。

新築住宅の施工の様子(画像提供:伊藤菜衣子)

【2】家づくりに万人共通の「正解」はない

「今までの住宅の定番としての正解」と「一般的な使い勝手の正解」と「施主が思い描く正解」、これらはイコールとは限りません。さらには「施主が思い描く正解」と、実際のライフスタイルを加味しての最適解が同じとも限らないわけです。むしろ、異なることのほうが多いように思います。そもそも、家づくりに万人共通の「正解」なんてものはありません。ライフスタイルも多様化している今、家づくりにおいて他者との共通言語はないものと考えたほうがいいでしょう。

【3】施主自身も学ぶ必要がある

新築住宅を建てるにも、リノベーションするにも、住まい手に一定の知識が必要です。プロとの間には大きな知識の差があり、かつ万人共通の正解がない以上、自分の意向を知るため、そして、それを言語化するため、デザインやプランのことも、断熱性能や気密性能、サッシや断熱材などの性能のこともある程度、知っておくことをおすすめします。

工事前に慌てて知識をつけるのではなく、今の住まいに住んでいる間も色々なことに挑戦してみるといいと思います。最近では、剥がせる壁紙のバリエーションも豊富ですから、アクセントクロス選びの予行練習をしたり、まだ数が限られますが断熱性能の高い賃貸住宅に転居したり、宿泊体感してみるのもいいでしょう。賃貸でも手軽にできる断熱DIYというのもあります。これまで一度もやってこなかったことを、長期の住宅ローンを組んで初めてやるというのも、勇気がいるもの。誰しもが家に住んでいるわけですから、理想の住まいを追求するためのリテラシーはいつからでも上げられます。

<リノベも新築もプロ任せにすると後悔する>
  1. プロとの間には大きな知識の差がある
  2. 家づくりに万人共通の「正解」はない
  3. 施主自身も学ぶ必要がある

6. 「中古+性能向上リノベ」を選択するときの気をつけるポイント

「中古+性能向上リノベ」は、合理的な選択肢であると思う一方、中古住宅や施工会社の選び方次第ではリスクもはらんでいると考えます。リスクを回避するため、次の5つのポイントをあらかじめ知っておきましょう。

【1】図面通り施工されているとは限らない

私はこれまで、複数の住宅で壁を剥がしたり、解体の様子を見てきましたが、開けてみないとわからない不具合って実は多いんです。札幌の家では、元々あった出窓をなくして樹脂サッシを入れるというリノベーションをしたのですが、解体してみると出窓の周囲の断熱材がぐちゃぐちゃになっていて。要は、断熱が効いてなかったんです。これでは窓の周りから熱や冷気が入ってきてしまいます。他の場所がきちんと断熱されていた場合、温度差が発生するので、結露しやすくなります。

【2】性能向上リノベーションができる施工会社は少ない

リノベーションで、断熱性能や耐震性能を上げることは可能です。しかし、これらの性能向上のリノベーションができる施工会社というのは、決して多くありません。その理由は、そもそも断熱性能に関する義務化は新築でさえ2025年から、しかも基準も断熱等性能等級4を満たせばいい、というムードだからです。義務化もされていない断熱等性能等級5〜7をリノベーションでやるというのは、まだ一般的な選択肢にはなっていないでしょう。ですから「どこでもやってもらえる」とは思わず、自分たちが希望する改修ができる施工会社かどうかという点をまず確認すべきでしょう。

【3】言語化してしっかり希望を伝える

施主が「断熱性能を高めてください」と依頼しても、その捉え方は様々です。「新築じゃなくてリノベーションなんだから」と等級4よりも低いレベルを想定するかもしれないし、義務化の等級4で十分と想定するかもしれない。「暖かくしてほしい」「性能を上げてほしい」といった言い方だと、施工会社の常識内で認識されてしまうおそれがありますので、「断熱等性能等級6以上にしたい」など、必ず数値や等級で要望を伝えるようにしてください。

【4】施工会社の見極め方

しっかり勉強していて、誠実に施主や家づくりに向き合っている施工会社の多くは「隙間係数」の測定をしています。「C値」と記載されることも多いです(C値:家の中にどれくらいの隙間があるかを示す数値)。この数値は測定することはおろか、そもそも義務化されておらず、さらには高性能な資材を使えば下げられるというものでもありません。いかに隙間を少なくできるかは、職人の技量次第です。つまり、C値をしっかり計測している施工会社さんは誠意があり、なおかつ低い値が出ていれば、職人さんの技量が高いと私は判断します。

【5】リスクの少ない中古住宅の見極め方

私が思う、リスクの少ない中古住宅は、シンプルな形状のものです。凸凹していなくて真四角であれば表面積が小さいので、断熱性向上リノベーションの費用も抑えられます。また、屋根もシンプルな形状のほうが、継ぎ目が少ない分、雨漏りもしづらいんですよね。万一、雨漏りがあったときもシンプルな作りのほうが修繕費は安くすむようです。施工ミスも、お豆腐のようなシンプルな形状の家のほうが起きにくいものです。

形状や外観は人の好みが分かれるところですが、「リスク」という観点で考えれば、できる限りシンプルで継ぎ目の少ない外観の家を選んでほしいと思います。

<「中古+性能向上リノベ」を選択するときの気をつけるポイント>
  1. 図面通り施工されているとは限らない
  2. 性能向上リノベーションができる施工会社は少ない
  3. 言語化してしっかり希望を伝える
  4. 施工会社を見極める
  5. リスクの少ない中古住宅を見極める
伊藤菜衣子編集「あたらしい家づくりの教科書」(新建新聞社)(画像提供:伊藤菜衣子)

7. 中古+リノベで快適な住まいを実現しよう

これまで紹介した通り、新築住宅には新築住宅ならではのよさが、中古住宅には中古住宅ならではのよさがあります。そして、リノベーションを行えば、中古住宅でも住宅性能はきちんと担保できます。

ただし、安心して快適に住むためにも不動産会社任せ、施工会社任せにしていては自分の望む家は実現しません。しっかりと自分で知識を蓄え、試行錯誤し、慎重に物件や会社を選んでいくことが理想の家づくりに近づくための方法です。

ぜひ、注文住宅の新築、「中古+リノベ」の両方を実践してきた私の経験も参考にして、求める家づくり・家選びをしていただきたいと思います。

伊藤 菜衣子 (いとう さいこ)
「未来の“ふつう”を今つくる」をモットーに暮らしにまつわる違和感をアップデートし、言語化を試みる。インターネットとリアルを泥臭く奔走し未来の暮らしを手繰り寄せていく様を、坂本龍一氏は「君たちの暮らしはアートだ」と評す。著書に編集と執筆を手がけた「あたらしい家づくりの教科書」「これからリノベーション 断熱・気密編」(新建新聞社)など。札幌の元自邸は断熱の性能向上が評価され2016年リノベーション・オブ・ザ・イヤー800万円未満部門最優秀賞。現在は愛知県で竹内昌義氏が設計したUa値0.27W/m2・Kの戸建てに住む。