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「相続登記義務化」2026年4月以降は氏名・住所変更登記も義務に!不動産相続で「損する人」と「得する人」の決定的な違い

安達 莉々

2024年4月、それまで任意だった相続登記が義務化されました。そして2026年4月には、住所・氏名の変更登記も義務化となります。不動産は分割しづらく、評価額も高額になりやすいため、相続時にトラブルに発展しやすい財産です。生前からしっかり対策をしておかないと、相続人が大きな損失を被るおそれがあります。

この記事では、司法書士の安達 莉々(あだち りり)が相続登記や氏名・住所登記義務化の概要や不動産相続で損しないためのポイントなどについて解説します。

1. なぜ不動産相続は決断が遅れると「損」をするのか?

不動産は現金のように分割が容易ではなく、判断を先延ばしにするほど話し合いがこじれやすい財産です。まずは、相続トラブルが起こりやすい理由を整理していきます。

不動産の相続は「分割」で揉めることが多い

分割が難しい場合は、不動産を誰か1人が相続し、他の相続人に金銭で精算する「代償分割」という方法もとられますが、不動産の評価の基準も一つではないため「高い評価額で算定して代償金を高く請求したい人」と「安く評価して支払いを抑えたい人」とが衝突することも少なくありません。また、代償金は高額になりやすいため「家は欲しいが払えない」という理由で成立せず、結果的に共有持ち分としたり、泣く泣く売却せざるを得ない状況に陥ることもあります。

民法では「法定相続分」が定められていますが、これは相続人の間で遺産分割の合意ができなかったときの遺産の持ち分の目安にすぎません。実際には、生前の贈与や遺贈(特別受益)、介護や扶養(寄与分)を巡って揉めることも少なくありません。たとえば、親と同居していた子が家の取得を主張する一方で、他の兄弟は代償金を求めるなど、同居家族と離れて暮らす兄弟姉妹の間で対立が生じるケースもあります。

また、相続人の中に認知症などにより判断能力が低下した人がいる場合は、遺産分割協議ができません。成年後見人制度を利用すれば協議を進められますが、手続きには一定の時間を要します。

相続トラブルはどんな人にも起こりうる

相続トラブルというと、不動産を多く所有する地主や資産家特有の問題と思っている人もいるかもしれませんが、家庭裁判所での相談の約7割が5,000万円以下の財産で発生しています。たとえ相続資産が持ち家だけだったとしてもトラブルになる可能性は十分にあります。

また、不動産にはそこで暮らした「思い出」や「愛着」があったりもするものです。単なる資産として割り切れないことが、話し合いをより難しくする要因となることもあります。

決断の遅れがトラブルをさらに複雑に

遺産分割の問題を放置していると、さらにトラブルが複雑化しかねません。たとえば、遺産分割協議や相続登記を怠っている間に相続人のうちの誰かが亡くなった場合、その人の相続が新たに発生し、相続人が増えることになります。仮に、当初の相続人が兄弟姉妹だけだったとしても、新たな相続発生により相続人に甥や姪が加わることで関係者が多くなり、協議が難航する可能性もあります。

また、代償分割で折り合わないことを理由に、不動産を共有名義とする方法は、一見すると解決策のように見えて、実際には問題の先送りとも言えます。共有者が増えるほど意思決定が難しくなり、将来的に売却や活用を進める際に、さらにトラブルが複雑化する可能性もあります。

不動産相続の「決断」が遅れると損をする!
  • 分割・評価しにくい不動産は「分割」で揉めることが多い
  • 相続トラブルはどんな人にも起こりうる
  • 遺産分割の問題を放置していると相続人が増え、さらにトラブルが複雑化するおそれがある

2. 相続登記が義務化。2026年4月からは住所・氏名変更も義務化

2024年4月に相続登記が義務化され、不動産の登記制度は大きく見直されました。さらに2026年4月からは、住所・氏名の変更登記も義務化されます。

2024年4月から義務化の相続登記

2024年4月1日から、それまで任意だった相続登記が義務化されました。不動産を相続によって取得したことを知ってから3年以内の相続登記の申請が義務づけられ、正当な理由なしに義務に違反した場合は10万円以下の過料が科される可能性があります。正当な理由とは、たとえば「遺産分割協議がまとまらない」「相続人に認知症の人がいて手続きが進まない」といったケースが該当します。

2024年3月31日以前に相続した場合も義務化の対象ですが、3年の猶予期間が設けられており、2027年3月31日までに相続登記申請をする必要があります。

もし遺産分割協議がまとまらない、あるいは手続きに時間を要するような場合には「相続人申告登記」をすることで登記申請の義務を履行できます。相続人申告登記制度は、相続登記義務化と同時にスタートした制度で、自らが登記上の所有者の相続人であることを証明するためのもの。特定の相続人が単独で申し出ることも可能です。ただし、これはあくまで「義務を果たすため」の応急処置的な措置であり、最終的な所有権を確定させるものではありません。協議が調った後には、あらためて登記手続きが必要です。

相続登記の方法

相続登記にまず必要になるのは、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本などです。相続登記義務化に先駆け、2024年3月から本籍地以外の市区町村の窓口でも戸籍謄本などが取得できる「広域交付」がスタートしたため、従来に比べて取得しやすくなっています。ただし、古い戸籍は対象外となることもあるため注意が必要です。

また、遺言書がない場合には、相続登記申請に遺産分割協議書の作成も必要になります。先の通り、協議で揉めて相続登記ができないケースも少なくありません。

必要書類が揃ったら、登記申請書を作成して法務局へ提出し、手続きは完了となります。手続き自体はそこまで難しいものではありませんが、誰が戸籍謄本などを取得するかで揉めたり、遺産分割協議書への署名や印鑑証明書の提出に協力しない親族がいたりすることで、想定以上に時間がかかることもあります。

図1:広域交付制度

本籍地以外の市区町村の窓口でも、戸籍証明書・除籍証明書を請求できるようになった(画像出典:法務局

2026年4月から住所等変更登記も義務化

2026年4月1日からは、住所・氏名の変更登記も義務化されます。引越しや結婚、離婚により住所・氏名が変わった場合は、変更の日から2年以内の登記が義務づけられ、正当な理由なく義務に違反した場合は5万円以下の過料が科される可能性があります。こちらも、義務化以前の変更も対象です。義務化前に住所・氏名に変更があった場合は、2028年3月31日までに登記する必要があります。

住所等変更登記は相続登記と比べると手続きが容易なため、自分で申請する人も少なくありません。もし住所変更などをしていないと将来的な相続の際に、登記簿上の住所と実態との繋がりを証明する必要があり、証明が難しいと相続登記が難航する可能性もあります。そのため、氏名や住所が変わった場合には、他の手続きとあわせて変更登記をしておくことが大切です。

また、義務化と同時に、所有者が変更登記の申請をしなくても登記官が住基ネット情報を検索し、これに基づいて職権で登記を行う「スマート変更登記」が開始します。これに先駆け、2025年4月21日からは、登記官が所有者の住基ネット情報を検索するための「検索用情報」の申し出がスタートしました。申し出を済ませておけば将来の義務違反を防げる便利な制度です。すでに不動産をお持ちの方も、今すぐ「検索用情報の申出」をしておくのが得策です。新たに不動産を購入した人は登記の際の申し出が必須になっていますが、4月以降の住所変更時に法務局側からアプローチしてくれる体制が整うため、自ら動く手間を最小限に抑え、義務違反を防ぐ有効な備えになります。

図2:スマート変更登記

「検索用情報の申出」をしておくことで、住所や氏名の変更があった場合、法務局は変更の事実を確認して、本人の了解を得たうえで変更登記をしてくれる(画像出典:法務局
相続登記義務化・住所、氏名変更登記義務化
  • 相続登記が義務化:2024年4月より前に相続した不動産も対象。3年以内の登記が必要
  • 住所・氏名変更登記が義務化:2026年4月より前の変更も対象。2年以内の登記が必要
  • 過料:相続登記の違反は10万円以下、住所等変更の違反は5万円以下の過料となる可能性あり
  • 遺産分割協議がまとまらない場合などは「相続人申告登記」によって登記申請の義務を履行できる
  • 2024年3月には「広域交付」が開始。本籍地以外の市区町村の窓口でも戸籍謄本などが取得できる
  • 住所・氏名変更登記義務化と同時に、登記官の職権で登記を行う「スマート変更登記」もスタート

3. 不動産相続で「損する人」と「得する人」の決定的な違いとは?

不動産の相続でトラブルや損失につながるケースはさまざまですが、どのような状況においても、結局は生前の準備ができているかどうかが結果を分けます。ここでは、不動産の相続で「損する人」と「得する人」の違いを整理していきます。

相続トラブルによって「損する人」の特徴

事前準備をしていない人

不動産の相続で損する人に共通するのは「準備をしてこなかった」ことです。多くの人が遺言書を作成しておらず、不動産についても境界の確定ができていないなど、将来を見据えた対策をしてこないまま相続を迎えています。こうした状態では、遺産分割や相続した不動産の売却といった場面でトラブルが起きやすくなります。

兄弟姉妹が3人以上

仲のよい2人程度の兄弟姉妹であれば揉めるケースは少ないですが、兄弟姉妹が多いケースや価値の高い不動産を相続する場合、被相続人と同居していた兄弟姉妹がいる場合などはトラブルになる可能性が高い傾向にあります。

「うちの子たちなら大丈夫」と考える親も多いでしょうが、実際には自分の世帯を持ち、それぞれに配偶者や子どもがおり、生活環境や価値観もさまざまです。関係性が悪くなかったとしても、必ずしも円満に話がまとまるわけではありません。

“相続財産は不動産が中心”の家

法定相続分では、子は平等に相続することになっていますが、不動産は分割が難しい資産です。相続資産がほぼ持ち家のみで、先の通り、兄弟姉妹のうち一人が親と同居していた場合も、代償金の支払いが難しく、代償分割ができないケースもあります。

不動産の持ち分を分けて一つの不動産を共有名義とすることは、将来的に揉める可能性が高いため、あまりおすすめしていません。兄弟姉妹の共有であればまだいいかもしれませんが、やはり将来的に甥や姪、従兄弟同士の共有となればさらに揉めることにもなり得るため、トラブルの先送りとも言えます。

最終的には、相続人のうち誰かが妥協したり、相続した不動産を売却したりすることが多く、場合によっては家族関係に深刻な亀裂が生じてしまうこともあります。地方の空き家などは、遺産分割で揉めている間に資産価値がどんどん下がってしまう可能性も。押し付け合いになり、次の世代にまでトラブルや負担を引き継ぐケースすら見られます。

不動産の登記手続きを適切に行ってこなかった家

前述の通り、相続登記や住所変更を長年放置すると、登記簿上の住所と現在の住所の繋がりを証明できなくなり、のちの遺産分割や相続登記が難航する傾向にあります。過料が科されたり、適切な遺産分割をする時間が足りなくなり、相続税を多く支払うことになったりする可能性もあります。

しっかり事前準備をしていて「得する人」の特徴

対して、不動産の相続で「得する人」の特徴は、なんといっても「生前からしっかり準備していた」ということにつきます。最低限の対策として挙げられるのが、遺言書を残しておくことです。あらかじめ財産の分け方を明確にしておくことで、相続人同士の無用な争いを防ぐことができます。ただし、遺言は「亡くなった後」の対策にすぎません。生前に認知症を発症するなどして意思能力が損なわれると、生前の不動産売買や適切な財産管理が難しくなります。

また、不動産は現金より評価額が低くなりやすいため、現金を不動産に変えることで相続税対策になることもあります。ただし、前述の通り相続財産が不動産中心の場合は揉める可能性も高いため、計画的な取得と整理を行うことがポイントとなります。この点については、次の章で詳述します。

これらに加えて生前贈与をすることで、さらなる節税ができることもあります。そう言った意味でも、やはり不動産の相続で得する人の特徴は「相続が発生してから」ではなく「生前」からしっかり準備していることと言えるでしょう。

不動産相続で「損する人」と「得する人」の決定的な違い
  • 損した人に共通するのは「相続対策をしてこなかった人」
  • 特に兄弟姉妹が多い場合、価値の高い不動産を相続する場合、被相続人と同居していた兄弟姉妹がいる場合などはトラブルになる可能性が高い
  • 得した人は生前からしっかり準備している
  • 「亡くなった後」のための対策だけでなく、認知症などを発症した場合にも備えている

4. 不動産を「負の遺産」にしないための3つの「生前」対策

不動産を「負の遺産」にしないためには、相続が発生してからではなく、生前のうちから準備を進めておくことが大切です。相続後では選択肢が限られてくるため、家族それぞれができる備えや専門家の活用を早めに検討しておきましょう。

「親」ができること

遺言は相続対策として有効ですが、あくまで「最低限」の備えにすぎません。状況によっては、家族信託や節税対策など、より踏み込んだ対策も検討しておくと安心です。

「家族信託」は、本人が元気なうちに、自分の子どもなど信頼できる人を選んで契約することで財産を任せることができる制度です。委託を受けた子などの受託者は、契約次第で不動産の売買や財産の管理ができます。市況を見ながら適切なタイミングで資産を売却することや、相続税対策のために不動産を購入することなども可能。加えて、期間については委託者の死亡後を含めて設定できるため、相続対策にもなります。

認知症の発症にも備えられ、亡くなる前から亡くなった後も受託者が中心となって対応できるのが家族信託の大きな特徴です。ただし、元気なうちに契約しておくことが前提となります。

認知症を発症してから「成年後見人」を選任することもできますが、成年後見制度では家族以外の専門家が後見人となることも。また、自宅の売却など被後見人の財産を減らす行為については、家庭裁判所の厳しいチェックが入るため、たとえ相続対策や介護施設入居のためでも資産の売却・組み替えが許可されないこともあります。

図3:「家族(民事)信託」のしくみ

家族(民事)信託とは、元気なうちに自宅などの財産を信頼できる人(受託者)に信じて託すことを指す(画像出典:国土交通省

表:「家族信託」と「成年後見制度」の比較

項目家族信託成年後見制度
資産管理の柔軟性契約に基づき、受託者(子など)が柔軟に売却や運用が可能家庭裁判所が厳しくチェックし、財産を減らす行為(売却等)は制限されやすい
相続対策信託期間を死亡後まで設定でき、スムーズな承継が可能本人の財産保護が目的のため、節税や相続対策のための支出は原則不可
費用目安初期費用として数十万円〜100万円程度司法書士等への依頼で数十万円〜。別途、後見人への継続的報酬が発生する場合も
家族信託は柔軟な財産管理から相続対策を家族などの受託者に「託す」契約であるのに対し、成年後見制度は主に本人の権利や財産を「守る」ことを目的とした制度。

相続対策をするうえでは、相続財産とその価値(相続財産評価額)を把握しておくことも大切です。特に不動産については、土地・建物それぞれの評価額を把握しておくようにしましょう。子が複数いる場合は不公平にならないよう、相続財産評価額をもとに「誰に何を」まで家族会議をしておけると望ましいでしょう。場合によっては評価額を抑えながら公平に資産を分配するために新たに不動産を取得する、という判断になるかもしれません。

過去には、「土地を2分の1ずつ分けてほしい」との遺言があったものの、共有名義にするのか、それとも分筆するのかで判断に迷い、苦慮する相続人がいました。土地の形状や接道状況によっても、適切な判断は分かれます。単に相続割合を決めておくだけでなく、権利関係を整理しておくとともに「どう分けるか」を決めておくことも、有効な相続対策となるでしょう。

さらに、先の通り相続前に登記上の住所・氏名を現在のものにしておくことも相続対策の一つになります。

古い土地や一戸建ては境界が確定していないことがあるので、相続後の分割や売却をスムーズにするために、生前に確定測量をしておくのも有効な対策です。

「子」ができること

相続について私のもとに相談に来るのは、親世代より子世代のほうが多い状況です。親が高齢になると、書類の整理や手続き、判断などが難しくなるため、子どもがフォローをする気持ちでいることが大切でしょう。

ただし、子が主体で相続対策をしていると、途中で親からストップがかかることもあります。子がまずすべきなのは、親との話し合いです。相続の話は切り出しにくい部分もありますが、一緒に相続に関するニュースを見たり、家や資産に関する書類の整理をしてみたりすることから始めると、自然に相続の話につながりやすくなります。親の管理能力を疑うのではなく、「制度が変わるから一緒に確認しよう」というスタンスが、角を立てずに話を進めるコツです。また、自身の家のリフォームや資産などについて親に相談することで、実家の話にもつなげやすくなります。具体的な資産の把握や登記の状態などは、専門家につなげた後でも確認できるので、大枠のところを話し合っておくとその後がスムーズになるでしょう。

専門家への相談

家族信託は手続きが複雑なため、司法書士などの専門家に依頼するのが一般的です。費用は数十万円から100万円程度かかることもあり、相続対策としてすべての人に向くものではありません。成年後見制度も司法書士に依頼すると数十万円かかりますが、家族信託と比べると費用を抑えられる傾向にあります。

一概にどちらが向いているとは言えず、必ずしも家族信託や成年後見制度を利用しなければならないわけではないため、悩む場合は生前に司法書士に相談することをおすすめします。

相談のタイミングとしては、できれば親の判断機能がしっかりしている70代のうちが望ましいと感じます。ただし、子どもがいない・再婚している・養子がいる・内縁関係や胎児、認知された非嫡出子がいるなど家族構成が特殊な場合は、早めに相談しましょう。

実際に相続が発生した後の専門家への相談の順序としては、まず行政手続きを済ませ、その後に税理士(相続税申告手続き)、司法書士(登記手続き)の順に進めるのが一般的です。

不動産相続の「生前」3大対策
  • 親ができる対策:遺言・家族信託・節税対策・相続財産の把握、権利関係の整理・子との話し合い
  • 子ができる対策:親との話し合い
  • 専門家への相談

5. 「生前の対策」で損のない相続を

相続対策に早すぎるということはありません。子が相談に来たときには、すでに親の判断能力がなくなってしまっていることも少なくありません。この状況では、いくら相続対策をしても亡くなった後に揉めることが非常に多くなります。

相続登記や住所・氏名の変更登記が「義務化されたから」ではなく、常に実態と登記情報が一致しているのが望ましい状態です。変更登記の義務化に合わせ、相続人申告登記制度や戸籍謄本の広域交付、スマート変更登記などの整備も進んでおり、従来と比べて登記手続きも容易になっています。これを機に、登記情報の確認や更新、家族の話し合いを進めていきましょう。