年内に不動産を売りたいと考えている人にとって、9月は最後のチャンスです。中古住宅の平均成約期間は3ヶ月前後。逆算すると、9月頃には売却活動を始めておきたいところです。
ただし、単に9月に売り出しさえすれば、必ず年内に売却できるというわけではありません。不動産会社の選び方や価格設定、物件の見せ方はもちろん、反響が伸びない場合の軌道修正まで、限られた時間のなかで適切な判断を重ねられるかどうかが結果を左右します。
そこで本記事では、価値住宅(株)の高橋正典(たかはし まさのり)が、9月スタートで年内売却を成功させるための戦略を解説します。
1. 年内の売却を目指すなら9月がラストチャンスの理由
9月がラストチャンスと言えるのは、中古住宅の平均成約期間が3ヶ月前後であることに加え、秋が売りやすい季節であるためです。ただし、近年は成約期間が長期化しており、12月には市場の動きも鈍るため、売りやすい時期とはいえ、余裕があるわけではありません。
平均成約期間は3ヶ月前後
2025年に首都圏で売買された中古住宅の平均成約日数は、マンションが「82.5日」、一戸建てが「100.9日」です。マンションも一戸建ても、近年は成約期間が長期化している傾向にあります(出所:東日本不動産流通機構「首都圏不動産流通市場の動向(2025年)」。
あくまで平均値ではあるものの、3ヶ月前後の売却期間は確保しておきたいと考えると、9月は年内に売却できるラストチャンスと言えるでしょう。
秋は春以上に売りやすい時期
1年の中で中古住宅の成約数が多いのは、例年、2月・3月。これは、4月からの新生活に向けて不動産を売買する人が多いためです。
秋も異動や転勤の内示が出る時期であることから、夏や冬に比べると成約数が多くなります。また、秋は新築住宅の供給が少ない時期でもあります。春ほどではないものの一定の需要があるため、相対的には売りやすい時期と言えるでしょう。
ただし、12月に入ると多くの人は年の瀬で慌ただしくなり、物件への問い合わせは減る傾向にあるため、10月・11月が勝負と言えます。
2026年は例年以上に「秋」が狙い目か
2026年現在、中東情勢の緊迫化を背景としたホルムズ海峡封鎖による「ナフサショック」の影響でリフォームの着工に遅れが生じています。このことから、今年に関しては新年度に向けて早めにマイホーム購入に動き出す人が増える可能性があります。春頃から着工できない案件が積み上がっており、職人不足もあって依然として工期は長期化している状況です。
また、2026年6月には政策金利が1.0%となり約31年ぶりの高水準となりました。住宅ローン金利もじわじわ上昇しており、先高感から「金利が低いうちに」と早めに動き出す人も少なくないでしょう。こうした背景から、2026年は例年以上に「秋」が不動産売却の狙い目と言えるかもしれません。
2. 3ヶ月で売り切るための売却スケジュール戦略
約3ヶ月という限られた期間で不動産を売り切るには、段階ごとにスピード感を持って判断を重ねていくことが求められます。ここでは、査定依頼から契約・引渡しまでのスケジュールと戦略を4つのステップに分けて解説します。
1. 査定は必ず複数社に。売却戦略を提示できる会社を選ぼう
時間が限られている中でも、査定依頼は必ず複数社にしましょう。多すぎてもやり取りや判断に手間と時間を要することになるため、3社程度がよいと思います。
複数社に査定依頼することを勧める理由は、少しでも高い査定額を出してくれる不動産会社を探すためではありません。「査定額=売れる金額」ではないため「適正価格」を出してくれる不動産会社を見極めて選ぶことが大切です。
特に最近は、成約価格と売出価格(在庫価格)に大きな差異が見られます。売出価格のほうが顕著に高いため、他の物件の売出価格ばかりを参考にすると、高すぎて売れないということにもなりかねません。

査定額の適正性を見極めるには、不動産会社が査定額算出の参考にした事例に目を向けるようにしましょう。不動産会社が査定する際には、近隣の参考事例も同時に記載するのが通例です。参照した取引事例が売出中の物件ばかりの場合、今の市況にそぐわない査定になっている可能性も否めません。
また、査定額だけでなく、各社から提案される「売却までのロードマップ」を比較することも大切です。時間が限られているため、うまい話だけを鵜呑みにせず、戦略に妥当性があるかを判断したいところです。「いつまでに何件の反響を目指すのか」「反響がなければいつ価格改定するのか」といった具体的な売却戦略を示してくれるか、そしてその内容や説明に納得できるかという観点で不動産会社を選ぶようにしましょう。
2. 媒介契約は「一般」にしない
不動産会社と締結する媒介契約は、一般媒介契約・専任媒介契約・専属専任媒介契約の3種類です。このうち、一般媒介契約のみ複数社と契約できます。
限られた時間の中で売却するということであれば、基本的に一般媒介契約は避けるのが賢明でしょう。一見すると、一般媒介契約は複数社に売却を依頼できることから早期売却が実現しそうですが、不動産会社にとっては仲介手数料を確実に得られる保証がないまま販売活動を進めざるを得ません。そのため、優先順位が下がったり、担当者の対応が消極的になったりする可能性があります。
専任媒介契約・専属専任媒介契約では、複数社に売却の依頼ができないため、1社に依存することにリスクを感じる人もいるかもしれません。通常、契約期間は3ヶ月とすることが多いですが、不安がある場合は「販売状況がよくない場合には1ヶ月で変えることもある」とあらかじめ伝え、短期で不動産仲介会社を変更できるようにしておくことも一つの手です。
約3ヶ月という売却期間を踏まえると、査定依頼から媒介契約までの期間は2週間程度を目安にしたいところです。
〈キーワード解説・用語集〉
媒介契約媒介契約についてもっと詳しく
不動産売却の成功を左右する【3つの媒介契約】を徹底比較。媒介契約の選択基準は?物件の特徴・目的別に紹介| 一般媒介契約 | 専任媒介契約 | 専属専任媒介契約 | |
|---|---|---|---|
| 複数社への依頼 | ○ | × | × |
| 自己発見取引 | ○ | ○ | × |
| レインズ登録の義務 | ×(任意) | ○(媒介契約締結から営業日7日以内) | ○ (媒介契約締結から営業日5日以内) |
| 活動報告の義務 | × (任意) | ○ (2週に1回以上) | ○ (1週に1回以上) |
| 契約期間 | 制限なし (行政指導では3ヶ月以内を推奨) | 3ヶ月以内 | 3ヶ月以内 |
〈キーワード解説・用語集〉
レインズレインズについてもっと詳しく
中古戸建て・中古マンションを【購入】するときに知って得する「基礎知識」3. 勝負は10月・11月!売却活動を「不動産会社に任せきり」にしない
専任媒介契約・専属専任媒介契約を結べば安心というわけではなく、売却活動を不動産会社に任せきりにしてしまうのはNGです。たとえば、査定依頼時に示されたロードマップの通りに進んでいないようであれば、質問したり、対策を講じてもらったりすることが大切です。場合によっては、売却期間中の媒介契約や不動産会社の切り替えも必要になります。
また、「部屋の掃除」は売主ができることの代表格です。今の時代、写真上の家具を消したりおしゃれな家具を配置するなど、加工が手軽にできるため、見栄えのいい広告を作ることはできます。ただやはり、購入を検討している人は必ず内見するため、実際に見てもらったときの印象が成否を分けます。
可能な限り整理・清掃を徹底し、必要なら荷物を減らすことも検討すべきです。内見準備は媒介契約を結ぶ前から始められるので、売却を決めた段階からコツコツ進めておきましょう。
12月になると忙しく、不動産の購入を検討し始める人が少なくなり、広告への反響も落ちる傾向にあります。したがって、売却活動は主に10月・11月の2ヶ月が勝負となります。
4. 契約〜引渡しまでに、2〜3ヶ月かかることも
12月から新たに検討し始める人は少ない傾向にありますが、12月の売買契約が嫌がられるということはほぼありません。居住中の不動産であれば、売買契約から引渡しまで2〜3ヶ月程度の期間が空くのが一般的です。この間に売主は引越しして、買主はローンの本審査を経て金融機関と契約します。
買主が了承すれば、年末に売買契約を締結して、春休み中に引渡すことも可能です。
3. 価格設定で失敗しないための考え方
限られた期間での不動産の売却では「価格設定」が最重要と言っても過言ではありません。ここでは、短期売却ならではの価格の考え方を2つの視点から解説します。
競合物件の有無と条件を確認
「成約事例を参考に適正価格を見定めて売り出す」というのが基本ですが、競合物件の有無や条件次第では、適正と思われる金額で売り出してもなかなか売れないことがあります。たとえば同じマンション内の別の部屋が売り出されていて、それが自分の物件より条件がよければ、買い手の関心はそちらに流れます。
特に現在は、マンションを中心に在庫物件の数が増加傾向にあります。2〜3ヶ月で売り切りたいとなると「競合が売れるまで待つ」選択もしにくく、売出価格で調整せざるを得ないため、査定結果を聞く段階で競合物件の有無や条件も確認しておきましょう。

「1回の値下げ」で決められる金額で売り出す
不動産会社の多くは査定時、査定額に加え「チャレンジ価格」を提示するのが一般的です。チャレンジ価格とは、その名の通り、挑戦的に相場より少し高い金額で売り出す価格を指します。しかし、2〜3ヶ月という限られた期間の中でチャレンジするのは現実的ではなく、成約価格をリアルに検討するようにしましょう。できれば、1回の値下げで決まる金額で売り出したいところです。
スケジュール的に何度も値下げする時間はなく、反響次第で数週間、あるいは1ヶ月程度経ったタイミングで値下げして決まる金額を逆算して検討するのがよいでしょう。価格帯にもよりますが、100万円の値下げだと効果が限定的になるため、値下げ幅は200〜300万円程度が一般的です。
4. 早期売却を実現するための販売戦略
適正な価格をつけても、物件の魅力が伝わらなければ買い手の決断にはつながりません。限られた期間だからこそ、「誰に、どう見せるか」という販売の仕方にもひと工夫加えたいところです。
メインターゲットは「子育て世帯」
年内にマイホームを購入し、余裕を持って新年度をスタートさせたいと考えるのは、子育て世帯が中心と想定されます。特に子どもの入学や進級を控えた世帯は、直前に慌ただしく引越しをするのではなく、新学期までに新居での生活に慣れる時間を確保しておきたいものです。年内に売買契約、遅くとも春休み中の引渡しというスケジュールは、まさにこうした世帯のニーズと合致します。
したがって、販売にあたっては基本的に子育て世帯を意識した見せ方が有効です。学区や通学路、周辺の公園や買い物環境といった生活情報を広告に盛り込んだり、内見時に収納の使い勝手を伝えられるようにしたりと「ここで子育てする」ことがイメージできる工夫をしましょう。
リフォームプランをつくる
中古住宅を購入する人の多くが、購入後にリフォームやリノベーションをします。買主自らが施工会社などを探してリフォーム・リノベーションすることが多いですが、売主側がリフォームプランをつくって購入検討者に見せることも売却戦略として有効です。
検討時にリフォーム後・リノベーション後の暮らしを「イメージ」してもらうことで、決断を後押しする効果に期待できます。実際にそのプランを使わなかったとしても「こんな暮らしができる」とイメージしてもらうことで、早期売却が実現しやすくなります。
〈キーワード解説・用語集〉
リノベーション
「ホームステージング」で印象UP
「ホームステージング」も、早期売却を実現しやすくする手段の一つです。ホームステージングとは、売却する予定の物件に家具や小物で素敵な彩りを加え、モデルルームのように購入検討者に対してよりよい印象を与え、売却を円滑に促す施策を指します。
築年数や立地、間取り、広さなど机上でわかる情報は多いですが、人間はやはり視覚情報を重視するものです。生活感が強く、雑然とした部屋では魅力が伝わりにくい一方、整った余白のある空間を演出することで購入検討者に想像の余地をあたえ、購入意欲を引き出します。
居住中でも物件のホームステージングは可能です。趣味嗜好が強い家具を無機質なものに変えたり、生活感の出るソファーカバーを外したりするだけで印象UPにつながることもあります。
ホーム(バーチャル)ステージングについてもっと詳しく
不動産売却へのDX活用の実態は?「AI査定」「Web広告」「バーチャルステージング」の効果を仲介会社に聞いた
検査(インスペクション)を実施する
中古住宅特有の不安を解消できるのが「検査(インスペクション)」です。建物の専門家が基礎や外壁、雨漏り跡や劣化、不具合の有無などを調査することで「安心」を提供することができます。
〈キーワード解説・用語集〉
インスペクション検査(インスペクション)の一つである「瑕疵(かし)保険適合検査」を受けたうえで合格した場合は「瑕疵(かし)保険」に加入することも可能で、買主のさらなる安心に寄与します。
〈キーワード解説・用語集〉
既存住宅売買瑕疵保険検査(インスペクション)やホームステージング、リフォームプランの作成は、いずれも一定の時間がかかる施策です。慣れた会社なら速やかに手配できますが、不慣れな不動産会社に依頼するとそれだけで数週間かかってしまうこともあります。そのため、こうした施策を検討するなら実績が豊富な不動産会社を選ぶことが前提となります。
売却期間に余裕がない場合には、さまざまな販売方法に対応している不動産会社を選んだうえで、まずは市場に出すことを優先し、必要な施策を同時進行で進めていくようにしましょう。
5. 売れない場合のリカバリープラン
万全の準備をして売り出しても、市場の反応が想定した通りになるとは限りません。重要なのは、反響が鈍いと感じた時点で早めに手を打つことです。打てる手は「値下げ」だけではありません。状況に応じて、次のようなリカバリープランを検討しましょう。
広告の見直し
まず、反響の状況を確認しましょう。「反響がない」と「反響があるのに決まらない」とでは、状況は全く異なります。反響があるのに決まらない場合は、原因を特定することから始めます。
一方で、反響がない場合に最初に見直すべきは「広告」です。AIの台頭などにより、今後、物件の探し方が変わっていく可能性もありますが、今はまだ不動産ポータルサイトで物件を探す人がほとんどです。
掲載されている物件情報の写真や文言を確認し、物件の魅力が引き出せていないと感じれば、不動産会社に改善を求めるべきでしょう。ポータルサイト内で上位表示されるためには、一定の費用も必要です。広告費を抑えていると物件情報が多くの人の目に触れず、売却に時間を要する可能性があります。
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プロが教える「不動産ポータルサイトの見方・使い方」。メリット、活用時のコツや注意点を紹介!値下げ
どれだけよい広告を打っていても、反響がないケースもあります。たとえばバス便の物件は、価格が妥当で、しっかり広告を打っていたとしても、そもそも駅から歩けない物件を検索する人自体が少ないということもあります。こうした状況では、やはり価格を下げざるを得ません。
値下げする際は、前述の通り「1回の値下げ」で決め切ることを意識しましょう。売り出しから数週間、あるいは1ヶ月程度経った時点で反響が乏しいようであれば、200〜300万円程度を目安に、購入検討者の目に留まる価格まで一気に調整するのが効果的です。
「買取」で売却する
売りたい期日がある人は「買取」を検討するのもよいと思います。「買取」とは、不動産会社に直接買い取ってもらう売却方法です。
かつて、買取価格は「相場の7掛け(70%程度の価格)」と言われていましたが、最近は相場価格と遜色ない金額で買い取るケースも増えています。これは、これまで不動産価格が上がり調子だったため、相場に近い金額で買い取っても利益を出すことができていたことによります。ただ最近は価格が高止まりしており、買取再販事業者が利益を薄くして買い取っている様子もうかがえます。買取再販は物件を仕入れなければ始まらず、回転率で成り立つ事業でもあるからでしょう。
「買取保証」や「売却保証」といった、一定期間売れなかった場合に不動産会社があらかじめ決めた金額で買い取るサービスを提供していることもあります。ただその場合、買取価格は従来通りの相場の7掛けだったり、買い取ることを重視して仲介に力を入れない可能性もあるため、条件や不動産会社の姿勢・対応をよく確認しておくことが必要です。
〈キーワード解説・用語集〉
買取再販買取再販物件についてもっと詳しく
不動産会社が販売するリフォーム・リノベーション済み中古住宅「買取再販住宅」ってどうなの?そのメリットは?古い一戸建てを「土地」として売却する
一定の築年数の一戸建ては「土地」として売り出すことで、価格を変えなくても反響が増えることがあります。新築住宅を建てるための「土地」を探している人の目に触れるようになり、これまでアプローチできなかった層からの反響が期待できます。
実際、築30年、駅徒歩15分以上の一戸建ての価格を変えず、物件種別を土地に変えたことで成約が決まった物件がありました。買主は新築住宅用地を探しているということでしたが、建物がまだまだ使える状態だったため、結局、取り壊して新築するのではなく、リフォームすることに。価格を抑えられたため、買主にも喜ばれた事例です。
一昔前は「坪単価」を気にする買い手も多く見られましたが、今は単価ではなく「総予算」を重視する人が多いように思います。価格を変えずに一戸建てを土地として売るとなると、坪単価としては割高になりますが、予算内であれば検討してもらえる可能性があります。
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中古住宅の平均成約期間が3ヶ月前後であることを踏まえると、年内の売却を目指すなら9月がラストチャンスです。ただし、9月に売り出しさえすれば売れるというわけではありません。
適正価格を見極め、具体的な売却戦略を提示してくれる不動産会社を選ぶこと、そして売却活動を不動産会社に任せきりにせず、状況に応じて軌道修正していくことが大切です。
限られた時間の中でも、リフォームプランの作成やホームステージング、検査(インスペクション)といった施策で、早期売却の可能性を高めることができます。売れない場合のリカバリープランまで視野に入れ、「戦略」と「準備」で納得のいく売却を目指しましょう。